妖怪

愛媛の妖怪「ジキトリ」は飢餓であった亡霊か山の神か

ジキトリは、愛媛県の宇和地方に伝わる妖怪、あるいは憑き物のことである。餓鬼憑きの一種とされており、人間にとりついて食物を、時には人間の体内の養分を奪い取ってしまう存在である。

民俗学者の柳田國男は、「食取り」(じきとり)がその名前の由来になっていると説いていた。

周囲に山々がそびえる宇和地方では、山中で急に空腹を覚え、さらに歩行困難や手先が動かせなくなるような状態になると、このジキトリに憑かれたものだと考えられていたという。その際、飯粒を1粒でも口にすると回復すると言われ、そのため遠出をする時は弁当を食べつくさずに数粒でも食べ残しておくようにとの言い伝えがあるという。

ジキトリは、餓死した者も亡霊であるという説から、単なる憑き物・妖怪としてではなく山の神だと解釈する地域もあるため、ジキトリが出ると思われる場所に石仏や祠などが多く設けられたと言われている。

ジキトリは山中の人気のない場所に潜んでおり、空腹になると出てきて通行人に取りつくという。そうしたひもじい思いをしているジキトリの腹を満たせば取りつかれることはないということから、一番箸で取った米粒を供えるという風習も行なわれていた地域もあったと言われている。

これらの、突然空腹に襲われるという点や、体が動かなくなってしまうといった性質や傾向から、ジキトリは西日本に伝わるヒダル神と同様の憑き物であることが伺える。ヒダル神も同じく、わずかでも食べ物を口にしたり、また藪に食べ物を投げ込んだりすることによって、対処や回復が可能であると言われている。

一説に、腐敗した植物が発する二酸化炭素の中毒症状、あるいは山間の移動による急激な血糖値低下が、ヒダル神に憑かれた際と同じ症状を見せるとされていることから、これらがヒダル神の正体であるとの説もある。その意味では、このジキトリも同様と見ても良いだろう。

類例として、広島県のオイガカリや新潟県のオバリヨンなど、山中で突然何者かが負ぶさったように体が重くなるという怪異がある。これらも、ヒダル神のような山中で運動困難に陥るたぐいの話と分類することができるだろう。

一見すると、山は木の実山菜などの食物自体は豊富なようにも思えるが、米を対処として用いるという点は、山の神が時節ごとに穀物の豊穣をもたらす田の神へと輪廻・交替するということにも関連しているのかもしれない。

いわば、ジキトリに米粒を与えるという行ないは、空腹を満たすためではなく、田の神として豊穣をもたらした際のお返しとして知らしめる効果であったとも言えるのかもしれない。

【参考記事・文献】
水木しげる『憑物百怪』

ジキトリ
https://www.nichibun.ac.jp/cgi-bin/YoukaiDB3/youkai_card.cgi?ID=2180388

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【文 ZENMAI】

sayamaによるPixabayからの画像