妖怪

広島県の妖怪「オイガカリ」と背中に負い被さる全国の妖怪あれこれ

オイガカリとは、歩いていると後ろから覆いかかってくると言われる妖怪で、UMAで有名なヒバゴンの目撃地でもある広島県旧比婆郡に現れると伝えられている。

表記は「覆い掛かり」とされる。民俗学者である柳田國男の著書『妖怪名彙』の中にその記述がみられる妖怪ではあるが、そのような姿であるか、そして覆いかかられた人はどの語どうなったのかについては分っていないようである。

後ろから覆いかかるというアクションを見ると、負ぶさるような状態であることがイメージできる。そのことから、おいかがりは全国各地に伝わる「負う」妖怪の一種として数えられることもある。

例えば、新潟県三条市にて夜中に歩いていると「おばりよん」と叫び背中におぶさってくる「オバリヨン」(おんぶおばけの別称もあり)、同じく新潟県南蒲原郡にて「ばろうばろう」(負われよう)と鳴いてくる「バロウギツネ」、大阪府南河内郡にて夜間に「おわれよか」と声を掛けられる「負われ坂」など、背負うことを要求する妖怪・怪異は非常に多い。

これらの伝承は、狐狸のたぐいが化けて人間にいたずらを仕掛けているといった形で伝わるものもあるが、少なくとも上記の妖怪・怪異についてはその発現場所が山間の地域であるということが共通している。そこで連想されるのが「ヒダル神」だ。

西日本に伝わる餓鬼憑きの一種とされるヒダル神は、憑かれると空腹感を覚えて体の自由を奪われ動けなくなってしまう、最悪の場合は死に至るという妖怪として伝わっている。この対処法として、わずかでも食べ物を口にするか、近くの藪に食べ物を投げ込むことで回復することができるということも言われる。愛媛県宇和地方に伝わる「ジキトリ」もこれに近い。

なお、ヒダル神については、植物が腐敗した際に発する二酸化炭素の中毒、あるいは、山歩きによる全身運動で急激に血糖値が下がった際に、このヒダル神に憑かれた時と同様の症状を見せるということから、これらがヒダル神の正体ではないかとする説もある。

体がだるくなり、負ぶさるような感覚を覚えるという点からすれば、これまで上げた負うことを要求するような妖怪・怪異にも山間であるため類似したものと見ることができるかもしれない。オイガカリもそのうちの一つとして数えられるだろう。

また、新潟県の「オバリヨン」については、お化けが背中についてしまった男が必死の思いで家に帰り、庭石に向かってこのお化けをぶつけると途端にお化けは姿を消し、代わりに小判がザクザクと出てきたといったパターンもあるという。

これは、ある苦難に耐えたことで大きな富を得るという民話のパターンにも見られるものと同様であると考えられるが、オイガカリのようにその後の顛末が無いものはそうした民話から一部分だけが抜き取られたものである可能性もある。

忍耐を説く説話から抜粋されて山への警戒のみが説かれるようになったもの、その話がオイガカリとして残るようになったのだろうか。

【参考記事・文献】
水木しげる『日本妖怪大全』
村上健司『日本妖怪事典』

おばりよん
https://x.gd/EZMxM
オバリヨン
https://dic.pixiv.net/a/%E3%82%AA%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%A8%E3%83%B3
オイガカリ
https://dic.pixiv.net/a/%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%82%AC%E3%82%AB%E3%83%AA

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【文 黒蠍けいすけ】

StockSnapによるPixabayからの画像