蘆屋道満(あしやどうまん)は、陰陽師である安倍晴明が生きていた同じく平安時代に存在していたと言われる民間の陰陽師。仮名草子『安倍晴明物語』においては播磨の国の生まれであると語られているものの、それを含め正確な生没年も明らかとなっていない謎多き人物である。そもそも、架空の人物ではないかとの説もある。
清明のライバルと見なされることが多く、呪術対決を行なったと言われているが勝利したのが清明であった。そのため、創作においても道満のポジションが清明の引き立て役に留まっている節がある。また、数多く残る説話においては、清明よりもはるかに年上の老齢な術者として描かれている。
『金烏玉兎集』では、ある時に清明の評判を聞きつけた道満が術くらべに挑むため都に赴いた。そこで、負けた方が弟子に降りるという賭けをし、そこで帝が長持ちを持ちだし、中に入っているものを当てるよう二人に命じた。
帝が長持ちに入れていたのは15個の大柑子(夏ミカン)、道満は「大柑子が15個」と答えると清明は「鼠が15匹」と答えた。清明の神童ぶりを聞いていた大臣らは内心失望していたが、いざ蓋を開けてみると中から鼠が飛び出し、まさに清明が言い当てた数だけ存在。
賭けに負けて清明の弟子となった道満であるが、相当に屈辱を感じていたためか、清明が唐へ修行に渡っているうちに清明の妻利花と密通してしまった。のちに帰国した清明であるが、道満が利花の手を借りてついには殺害。
このころ、清明の師であった伯道は悪い予感を感じ取り、急遽日本へ渡った。そこで生命が殺されたことを知った彼は、清明の塚を掘り起こして生活続命(しょうかつぞくめい)の法を執り行い声明を見事蘇生させることに成功。道満の元を訪れた伯道は、「清明と会った」と道満に伝えると「彼はもう死んだ。本当に生きているなら自分の首を差し出す」と豪語、だが蘇生した本物の清明が現れたことで驚愕し、言った通り首を斬られて絶命。
また『宇治拾遺物語』では異なる物語が描かれている。藤原道長の可愛がっていた1匹の犬が、ある日外出しようとする道長をしきりに阻んだ。違和感を覚えた道長は清明に相談を持ち掛けると、犬が道長に対して呪詛を送っていること、そしてその術が使えるのは道満しかいないことが明かされ、道満は播磨へ流刑に処された。
類話では、道長を政敵をみなしていた藤原伊周(これちか)が道満に頼んで呪物を庭に埋めで呪詛をかけていたが、清明がこれを察知して庭先から呪物を掘り起こして、呪詛の策略から道長を守ったという構成となっている『峯相記』などの例もある。
道満の印象はあまりにも悪役じみている。そのため、清明という人物を引き立てる為に仕立て上げられた人物もしくは架空の存在と見なされるのも致し方ない部分はある。それこそ、陰陽師の名の如く陰と陽を体現したような活躍・描写ぶりであるとも言える。
その謎めいた道満については、一つ非常に興味深い話もある。西播の江川地区の集落では、道満が道長の私利私欲をいさめる為に呪詛したという言い伝えが残されており、また道満は薬草を栽培するなどして地域に多大な貢献をなした人物であったと言われているという。いわば、道満の力が本当に強かったことを恐れた権力がこれを抑え込み、清明と対峙し敗れた人物として広めたという考え方もできる。
さらに、道満がカタカムナ人だったのではないかという説も存在する。カタカムナといえば、楢崎皐月(ならさきこうげつ)が六甲山にて平十字(ひらとうじ)という人物と出会い、カタカムナ神社に伝わる文書「カタカムナウタヒ」が知られている。
一説によると、古代の近畿地方(現在の兵庫県芦屋あたり)にはカタカムナ族と呼ばれる人々が住んでおり、天孫族との闘いに敗れて絶えてしまったと言われている。その最後の族長の名が「アシアトウアン」であったというのだ。このアシアトウアンこそが、蘆屋道満だったのではないかというのである。ある説では、神のご神託が道満の元へ降りてきて、それを詩の形でメモに記した全80首こそが現在に残るカタカムナではないかとの意見もある。
道満の実相はあまりにも謎めいているが、それゆえに多大な可能性も示唆されるのは当然だろう。伝承に残る悪役一辺倒で描かれた人物ほど、権力の都合で歪曲されるのは常である。その意味では魅力の尽きない人物と言えるのではないか。
【参考記事・文献】
中江克己『平安京の怨霊伝説』
蘆屋道満
https://dic.pixiv.net/a/%E8%98%86%E5%B1%8B%E9%81%93%E6%BA%80
謎多き「蘆屋道満(あしやどうまん)」その知られざる出自にせまる!
https://sengoku-jidai-kassen.com/other/20171126/
安倍晴明と呪術対決、蘆屋道満…実は若くてすご腕? 「陰陽師の里」に伝わるもうひとつの姿
https://www.kobe-np.co.jp/news/seiban/202205/0015294339.shtml
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【一人語り】現代の陰陽師石田千尋、その実力と正体
【文 ナオキ・コムロ】
画像 ウィキペディアより引用