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妖怪「白坊主」は現代最も代表的な幽霊の元祖だった?

白坊主は、日本各地の民話や伝承にその名が登場する妖怪である。各説話によって現れ方などが異なっており、また姿形に関する情報が非常に少ないため、謎の多い妖怪の一つとして知られている。

水木しげるの『日本妖怪大全』では、現在の大阪府の南部泉地方に現れた「のっぺらぼう」の一種であるとの説明がなされている。水木のイラストでは、吹き出しのような形状の白い玉のような存在が着物を着ているというデザインで描かれており、夜分に出歩いていた時に遭遇した話があるというだけに留まっている。

アトラスラジオでは、この水木画のような白坊主の目撃者のインタビューが公開されており、夜間に白いマシュマロのような玉が草むらを蛇行して去っていったという目撃談が語られている。夜道で白坊主に遭遇したという言い伝えは先の大阪および三重県飯南郡に残っており、この目撃がまさにその中間地点であったということから、白坊主の伝承の信憑性が強まったとも言える。

冒頭でも触れたように、白坊主はその他の地域の伝承にも描かれている。静岡県富士郡では、どんどん焼き(火祭り)を行なっていた際に山の方から「ほーいほーい」と呼ぶ声が聞こえ、その次の年にも聞こえてきたことで気味悪がられ、以来その地域ではどんどん焼きが行なわれなくなったと言われている。

広島県安芸郡では、河童が脚に接ぎ木して2メートルもの白坊主に化けて人を驚かせたという話も伝わっている。キツネが化けたものであるとの説もあるが、大阪では「キツネは藍染の縞模様の着物を着ている」と言われていることから、キツネではないとする言い伝えもある。

これら各地のケースとは異なった形で白坊主の名が登場するものに、熊本県天草郡の伝承がある。この地域の中央にあるクスノキには白髪の婆さんが棲んでおり、夜遅くにクスノキの傍を通ると、婆さんが自身の子である白坊主の着物で使用するための、糸を紡ぐ音が聞こえてくるという。このケースは、白坊主そのものを語っているわけではなく、妖怪として扱われているのか、単に幼子などの愛称として使用されているのか判然としていない。

白坊主は、具体的な描写が語られているものがほとんど無く、かなり朧げな妖怪だ。しかし、この性質が白坊主を白坊主たらしめる要因であるとも言えるだろう。

現代よく知られる妖怪あるいは幽霊に「白いワンピースの女性」がある。白いワンピースを着ていると描写される理由には、白装束を表しているというのが代表的な説としてあるが、夜道の中で最も目立つ色として白が必然的に用いられているとの意見もある。

幽霊の目撃例では、どのような表情をしていたか、どんな姿・衣装であったかについて曖昧にしか記憶していないというケースも多い。そのため、それをどうにかして思い出そうとする際に脳内補完として表現されるのが、白および白色の衣装(ワンピース)であるとも考えられるだろう。白坊主が「のっぺらぼうの一種」とされているのも、具体的な表情が記憶として残されていないことの表現手段だったのではないだろうか。

加えて、日本の妖怪は女、婆、爺のほか、坊主をはじめとして小僧や入道といった僧侶にまつわる名前を冠したものが非常に多い。これは江戸時代まで、寺というのが政治的・社会的に権力を有していたことに関係しており、住まう地域の寺に登録をして多額の費用を払わなければならない寺請制度などにより、庶民から嫌われていたことに由来すると言われている。そうした僧侶系への不満が妖怪という形で反映されたと考えられている。

これらを基に考えると、幽霊的な存在に遭遇しながらその想起の過程で脳内補完をした結果、白色であるということと妖怪・幽霊の代表例である坊主が当てられ、白坊主という存在として扱われた可能性はあるだろう。ともすれば、現代における白いワンピースの女性の幽霊の元祖は、白坊主なのかもしれない。

【参考記事・文献】
水木しげる『日本妖怪大全』
村上健司『日本妖怪大事典』

坊主・小僧・入道…なぜ日本の妖怪には「僧侶系」が多い?寺院と庶民の関係から考察
https://mag.japaaan.com/archives/204541
怪談考察。なぜ「白いワンピース姿」の幽霊が多いのか
https://blog.livedoor.jp/kaidanyawa/archives/55055956.html

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妖怪白坊主、化け猫の遭遇談

【文 ナオキ・コムロ】

画像 パコたん / illustAC