「山口さん、鳥の妖怪っていますか?」
突然、彼女から電話がかかってきたのは、数年前の秋の初めであったと記憶している。
「どういうこと?鳥だって?何かあったの?」
困惑する筆者に彼女は不思議な話を語った。
「実は、昨日夫と赤ちゃんと私でロフトに寝ていたんですよ。すると、何かが家の中に入ってきたんですよ」
彼女の話によると、家族三人で川の字になって寝ていると、突如、鳥の羽音が聞こえた。怪しいとは思ったものの、怖くて彼女はそのまま息を潜めた。すると、鳥がペタペタと床の上を歩いてくる。そして何かを探している。
確かに、そんな気配がしたという。そのうち、鳥は照準をロフトに絞ったようで、ぺたぺたという足音がロフトの梯子を上ってきた。
「やだ、こっちに来るな、来るんじゃない」
彼女は必死に祈ったが、足音は確実に近づいてくる。彼女は横に寝ている赤ちゃんを抱き寄せながら目をつぶっていた。
「ぺたり、ぺたり、ぺたり」
足音はロフトの上を歩き始める。まるで、寝ている人間たちを品定めするように、ゆったりと足音は三人の周りを歩いた。
「早く行ってよ、早く」
彼女の願いもむなしく、足音は赤ちゃんの枕元で止まった。しばしの沈黙が流れていく。怖くて目を開けられないが、彼女は確実に自分たちを覗き込む視線を感じた。
数秒、そのモノは彼女と赤ちゃんを覗き込むと再び、
「ぺたり、ぺたり、ぺたり」
と音を立てて出て行った。ロフトから立ち去る瞬間、彼女は薄目を開けた。どうしても、この来訪者の姿を確認したかったからである。
すると、鳥のような足が確かにそこにあったという。
(続く)
(聞き取り&構成 山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)