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日本の俗信「夜に爪を切ってはいけない」ことのさまざまな説

「夜に爪を切ってはいけない」という迷信を小さい頃に親などから注意された人は多いかもしれない。

古くからあるこの迷信は、「夜に爪を切ると親の死に目に会えない」要するに「早死にしてしまう」として忌避されてきた。この俗信は各地に存在しており、「牛の爪になる」(和歌山県)、「思いが叶わない」(山梨県)、「盗賊が入る」(千葉県)など、多くのバリエーションで伝わっている。

なぜ、このような迷信が広まるようになったかについては様々な説がある。

一つには、「夜・爪」の音から「世・詰め」、すなわち「世を詰める」(短命)との語呂合わせになってしまうことから早死にを暗示させるとして避けられるようになったというものだ。日本語においては、こうした語呂合わせに通じる語源説は非常に多いため、有力説の一つとしてたびたび唱えられている。

この語源説には、もう一つ「夜・詰め」の連想から来ているというものがある。夜詰めとは、城の門番の夜勤、言うなれば夜間警備の職を意味しており、どのような事情があろうともその場を離れることが許されないという厳しい役目を担っていたという。このことから、親が亡くなっても帰ることができないという言い伝えへと結びつけられたのではないかというのがこの説だ。

この夜詰めもそうであるが、時代的な事情に絡んだ説がいくつもある。例えば、現在のような爪切りの無かった時代、爪は小刀やハサミなどを使って切っていたと言われている。そのようなことを電気も無い時代、ろうそくのような小さな明かりだけを頼りに使うとケガをする危険が高い。

そのような不注意な者は早死にしてしまう、あるいは親から授かった体に傷を入れるような親不孝者を戒めるようなものとして唱えられているというのだ。これには、傷から病原菌が感染し命を落としてしまうリスクがあることを意味していることも考えられるだろう。

また、冬の夜に火鉢や囲炉裏の前で爪を切った際に、切った爪がそこへ飛んで入り込むことで燃えて「火葬しているような異臭を放つ」ため、縁起が悪いとされていたというようなものもある。

爪に対する特有の観念が影響しているという説もある。『日本書紀』においては、スサノオが高天原から追放される際に手足の爪を抜かれるという記述がある。爪は、毛髪と同様に勝手に伸び続けることから生命力の象徴または霊性を内在したアイテムとも見なされていた。

こうした例から、爪が自らの体から離れてしまうことには、良からぬ心理があったのだろうとの見解もある。かつては、爪を切ること自体が縁起の良い事ではないという風潮もあり、このことは死者の埋葬時に副葬品として近親者の爪や髪が共に棺へ納められていたことにも通じているという。

果ては、朝出征前の兵士が爪を形見として残していくという習慣から、「朝に爪を切ってはいけない」という俗信のパターンも存在しているという。こうなると、総じて爪を切ることは避けるべきものとの認識があったとも言えるだろう。

さらに、爪を魔物に盗まれて呪われてしまうというものもあったという。これは、中国で伝わっている怪鳥「姑獲鳥」が夜に爪を切るとそれに寄せられ襲ってくるというような伝承があり、それが日本へ伝わって影響を及ぼしたのではないかとも考えられている。

夜に爪を切ってはいけないという俗信一つに、実にこれだけの説が唱えられているというのも驚かされる。だが現代では、爪切りの道具も安全なものとなり、夜に視界が限られてしまう恐れもほとんどなく、この俗信の最も合理的な面でのリスクはすでに通用しなくなってきているように思える。

この俗信を支えているのは、もはや人々の想像のみであると言っても良いだろう。

【参考記事・文献】
夜に爪を切るのがいけないのはなぜ?言い伝え・迷信とその理由は?
https://belcy.jp/59119#heading-id-2589619
夜に「口笛を吹いてはいけない」「爪を切ってはいけない」理由とは?
https://jpnculture.net/kuchibue-tsume/#index_id8
「夜中に爪を切ってはいけない」理由とは?その由来は?合理的根拠はあるのか
https://news.livedoor.com/article/detail/21903026/

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【文 ナオキ・コムロ】

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