※下記は2019年5月の記事の再掲載です。
先月、5月28日は日本の犯罪史上、未だに語り継がれる女の事件に『阿部定事件』の犯人、阿部定の誕生日であった。
『阿部定事件』は1936年（昭和11年）5月18日に東京市荒川区尾久の待合旅館で、ひとりの男性が首を絞められた挙句、包丁で陰茎を切断。ソレを持ち去ってしまうという事件で、当時の新聞紙上は阿部のことを「妖婦」「女郎蜘蛛」と呼び恐れた。
阿部定は事件発生から3日後の5月21日に逮捕され、懲役6年の判決（求刑10年）を受けて服役、1941年（昭和16年）に（恩赦を受けて）出所している。
以上が『阿部定事件』の大まかな概要であるが、本記事では焦点を阿部定の出所後にあててみたい。
阿部定は出所後、警察からもらった偽名を使い第二の人生をスタートさせる。
戦中は平穏に暮らしていたものの、1947年（昭和22年）に阿部定のことを書いた本が多数出版されたことにより、阿部定は再び世間から注目されるのである。
もともと絶世の美女で、知名度抜群の阿部定に注目する興行師や料亭は多く阿部定を客寄せパンダとして利用。もっとも阿部定は元来は勤勉で真面目な性格であり、客寄せ要員としての役割を全うしつつ、ひとりの従業員として接客業に汗を流していたという（後に東京料飲食同志組合から優良従業員のひとりとして表彰されている）。
愛する男を自ら殺害した阿部定はいつしか、たった一人で生きていく事を決め、60歳を超えても隠居することなく働き続けた。しかし、戦前の東京を恐怖の底に陥れた阿部が働ける場所はそう多くなく、働く場所を転々としている。
比較的長く続いたのが1967年（昭和42年）に台東区で開店したおにぎり屋（俳優の土方巽など著名人が多く訪れた）だったが、これも1970年（昭和45年）に金銭トラブルにより店を閉めている。
そして事件から30年以上が経過した1970年代前半、「阿部定事件」が世間から忘れられはじめたちょうど頃、阿部定本人もその行方を晦ませてしまう。
最後に目撃されたのは1974年（昭和49年）で、以来、阿部定の足取りは明らかになっていない（1905年生まれの阿部定が今生きていたとすれば119歳となっている）。
事件から80年以上が経過した現在、阿部定に関連する建物はすべて取り壊されており、事件そのものを振り返る機会も少なくなっている。
その人生の大半を世間からの好奇の目に晒された阿部定。世間から消えた後の人生は穏やかだったものと信じたい。
（文：穂積昭雪 ミステリーニュースステーション・ＡＴＬＡＳ編集部）
画像 ウィキペディアより引用
