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捕手時代の「野村克也」が得意だった『ささやき戦術』

野村克也は、日本のプロ野球において選手及び監督として活躍した人物である。戦後間もないころから2000年代にかけてプロ野球を牽引した名選手・名監督として知られ、「ノムさん」と呼ばれ親しまれていた。

選手としては、1965年に戦後初かつ捕手として世界初(日米ともに現在も唯一)となる三冠王を獲得し、以後も数々の記録を生み出す球界の代表的選手となった。だが、現役時代は長嶋や王の人気の陰に隠れた存在であり、600号本塁打達成時の「王や長嶋がヒマワリなら、オレはひっそりと咲く月見草」という発言は、彼の代名詞ともなった。

また、ヤクルトスワローズや楽天イーグルスなどにおける通算24年の監督歴においても、自身が率いるチームをリーグ優勝5回、日本一3回に導いた。プロ野球界において「名誉監督」という称号が送られた人物は、2020年までに長嶋茂雄のほかは彼のみであった。

彼が現役時代に行なった戦略と言えば「ささやき戦術」が有名だ。彼は、すでに活用されている戦術を独自に改良を加え発展させることに長けており、この「ささやき戦術」もその一つであった。

要するに、打席に立った打者に対して話しかけて調子を狂わせ、あるいは揺さぶるという内容としてはきわめてシンプルなものである。それ自体は、当時の野球ではよく見られていたものであり、彼自身も若手時代に阪急の山下健捕手からその”被害”を受け、確かな効果を自ら実感したことで取り入れたものであると言われている。

当初、このささやき戦術は「次はぶつける」「今度は頭(インコース)だ」というような脅しともとれるものが多く、この戦術に阪急の西本幸雄監督が激怒したり、相手チームから報復の四球を食らったりと監督同士の会談にまで発展してしまい、脅迫めいた内容のささやきは封印となった。




内容は主に、「次はスライダーだ」と言って投手にストレートを投げさせるような配球をはじめとして、選手の私生活に関する事柄や身内話、「フォームが少しおかしいんじゃない?」という打者のクセを狙ったものなど多様であった。私生活ネタに至っては、野村自身が直接高級クラブやバーへ通って仕入れたほどであったという。

ささやき戦術は見事に効果覿面であり、あまりの鬱陶しさで耳栓をする者や、「うるさい!」と直接怒鳴る者までいた。張本勲に至っては、「お前は態度がでかいのに、ナニは小さい」という下半身のことを煽られたため、空振りに見せかけて頭をバットで殴打しようとしていたと言われる。

しかし、効果覿面のささやき戦術は万能ということではなく、その一方で全く効果の無かった選手もおり、中でも特に知られているのは対長嶋茂雄とのエピソードだ。野村のささやきに対して長嶋は「よく知ってるね、どこで聞いたの?」などとたびたび噛みあわない会話を始めてしまっていたという。

別の時には、野村が「フォームがおかしい」と指摘したところ長嶋が「本当?」と言って真に受けてしまい、一旦打席を離れて何度か素振りをして確認、その後なんとホームランを放ち「教えてくれてありがとう!」と礼を言われてしまった。

さらに、「次はスライダーだぞ」と言って投手にストレートを投げさせたところ、これまたホームランを打たれてしまい、挙句には「本当に”スライダー”を投げたらダメじゃないか!」と勘違いされたまま注意されてしまうという珍時まで起こってしまったという。

長嶋茂雄は得意なケースであっただろうが、後年のID野球と称されたような、彼なりの選手分析やデータ蓄積のスキルにも通じるような戦術となっていたことは間違いないだろう。

【参考記事・文献】
「野村克也自身がささやきの被害者だった」江本孟紀75歳が力説する“逆説のノムラ論”「大記録の陰に“逆説的野村再生工場あり”」
https://number.bunshun.jp/articles/-/856324
打者は困惑!?ミスターには通じず?ノムさんの『ささやき戦術』
https://g-times.jp/nomusan-sasayaki/
野村克也単語
https://dic.nicovideo.jp/a/%E9%87%8E%E6%9D%91%E5%85%8B%E4%B9%9F

【文 ZENMAI】

画像 ウィキペディアより引用