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大阪の町を闊歩していた?!妖怪「ぬらりひょん」の伝承と目撃例

「ぬらりひょん」といえば、鳥山石燕(とりやませきえん)の『画図百鬼夜行』や佐脇嵩之(さわきすうし)の『百怪図巻』に描かれた、長く大きな禿頭の老人の姿を真っ先に思い浮かべる人は多いだろう。後世の出版物、特にゲゲゲの鬼太郎の影響によって妖怪の親玉・総大将という設定が広まり有名になった妖怪でもある。

ぬらりひょんについては、家人が忙しくしている夕刻などにどこからともなく現れて家に入り茶を飲む振る舞いをするものの、家人たちはそれを「家主」と思ってしまい追い出さない、あるいは存在自体気づかないままでいるといった特徴でも語られる。いわば「つかみどころがない」存在であるとするこうした解説自体も、実際のところそのように述べられた伝承の資料などはなく、総大将同様に後世の後付けであると考えられている。

ぬらりひょんの目撃や伝承の記録はわずかながら確認ができる。そもそもぬらりひょんは、その発祥が「岡山県」と「秋田県」のいずれではないかと考えられていた。

岡山県に伝わるぬらりひょんは、吉備灘・瀬戸内海に出没した海坊主のような存在であると言われている。水面に人の頭ほどのつるつるとした玉が浮かんでおり、船人が取ろうとすると沈み、また浮かんでくるという動作を何度も繰り返したという。人をからかう妖怪として語られる岡山のぬらりひょんは、その正体がクラゲではないかとも考えられている。




秋田県で伝わるぬらりひょんについては、江戸時代後期の旅行家菅江真澄(すがえますみ)によって書かれた旅日記『雪の出羽路』に記されている。記述によると、出羽国の雄勝(おがつ)郡稲庭郷沢口村(現在の秋田県湯沢市稲庭町)にある「さへの神坂」では、ぬらりひょん、おとろし、野槌(のづち)などの百鬼夜行が見られることがあり、人々はその場所を「化け物坂」と呼んたという。

ここでは、残念ながらぬらりひょんについての具体的な姿や振る舞いなどは確認できない。「雪の出羽路」(1814)の成立は、石燕による画集「画図百鬼夜行」(1776)の刊行よりも数十年あとであることから、その画集の内容がモチーフもしくはミックスされたものである可能性もあるだろう。

いずれも伝承に留まるぬらりひょんの出現事例であるが、なんと近年になって実際に目撃されたと思われる例があった。2020年にYouTubeチャンネル『山口敏太郎のアトラスラジオ』にて、その目撃者のインタビューがなされたのである。

目撃者の女性によれば、場所は大阪と兵庫の県境。平成20年代の春ごろのある日、日の入り前の帰宅途中に子どもほどの背丈をした洋服姿の老人を目撃したのだという。その老人は、通常の2倍ほど頭部が大きく、禿頭で血管が浮き出ているほどであり、また目もこぶし大の大きさで、瞬きの際には上下のまぶたが同時に閉じていたというのだ。女性によれば、この謎の老人は同行していた知人も目撃しており、すれ違いとなったあとはどこへ向かったかもわからなかったという。

この存在が本当にぬらりひょんであったとするならば、極めて貴重な目撃例であろう。ぬらりひょんが現代に蘇ったかのような話である。つかみどころがなく、これといって人に実害を及ぼすような存在でもなく、むしろ人々をからかうような存在として語られるぬらりひょんであるが、季節や体型に合わないその衣服をまとうなど、大阪に現れたぬらりひょんもまた、見た人を驚かせるために町を闊歩していたのだろうか。

【参考記事・文献】
岡山県の妖怪で覚える!都道府県の地理・特産品【日本地図入り】
https://www.todofuken-rakugaki.com/yokai-okayama/
アマビエ、塗壁、山男…地元で語り継がれる伝説の妖怪たち

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ぬらりひょんは実在する!? 秋田県で「ガチ百鬼夜行」の目撃例… ドラマ「妖怪シェアハウス」を民俗学者が深堀り!
https://tocana.jp/2020/08/post_168334_entry_2.html

(ナオキ・コムロ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 Toriyama Sekien (鳥山石燕, Japanese, *1712, †1788) – scanned from ISBN 4-336-03386-2., パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2073228による