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日本最大級の直下型地震 日本の地震研究の出発点「濃尾地震」

美濃(みの)・尾張(おわり)地震は、1891年10月28日に濃尾平野北部で発生したマグニチュード8.0の巨大地震である。

日本の観測史上最大の直下型地震と言われ、美濃と尾張から一字ずつ取って「濃尾」(のうび)地震と一般的には呼ばれている(※2024年元日に発生した能登半島地震は、濃尾地震を上回る規模の内陸直下型地震ではないかとも主張されている)。

震源は岐阜県本巣(もとす)郡西尾根村(現在の本巣市)と考えられている。通常、直下型地震はマグニチュードが7クラスであることが殆どで、1995年の兵庫県南部地震もM7.3であった。濃尾地震は、兵庫県南部地震と比してその11倍という格段に規模の大きい地震であったことがわかる。

岐阜県西部から名古屋にかけて推定震度が7、新潟・群馬・広島・高知でも震度3はあっただろうと考えられている。死者およそ7,200人、負傷者17,000人以上、家屋全壊は142,000棟を超えた。断層のずれは横方向に最大8メートル、縦方向に最大6メートルにも及び、この隆起した根尾谷(ねおだに)断層は現在、国の指定特別天然記念物となっている。

発生時間が早朝(6時38分)で、朝食の支度をする家が多かったこと、また家屋倒壊などにより井戸や消防機材の多くが使用不能となっていたことから火災による被害も拡大した。

土砂災害も深刻であり、美濃地域だけでもおよそ10,000ヶ所近い地点で山崩れが起こり、さらに土砂によって川の流れがせき止められたことで天然ダムが8ヶ所も形成されるほどであったという。岐阜県を中心にしたこの壊滅的被害を当時の新聞記者は「ギフナクナル(岐阜、無くなる)」と伝えたという。

特筆すべきは、名古屋に駐屯する第三師団の被災者救援であろう。当時は、軍隊による災害出動は定められている任務ではなかったのだが、師団長である桂太郎の独断によって実現することとなったのだ。事態が収束すると彼は、勝手に部隊を動かしたことの責任を取り陸軍大臣に辞表を提出したという。ただこの時ばかりは、問題なしとして不受理となったようである。




被災地には、多くの医師や看護師のほか科学者も派遣された。この当時、地震がなぜ発生するかといったことすらもほとんど知られていない状態であったが、濃尾地震発生の翌年1892年には「地震予防調査会」が設立、本格的な地震研究と地震災害における被害の最小化、耐震建築などの研究が行なわれることとなった。のちにこれらの多くを東京大学地震研究所が引き継ぐこととなり現在に至っている。

因みに、近年の震災や関東大震災において、多くの流言飛語やデマ情報が広まっていたことはよく知られているところではあるが、この濃尾地震でもその事情は変わらない。大ナマズが破裂した大地から飛び出した、山の神が岐阜を焼き払おうとした、岐阜市の人々を襲おうと風に向かって火が走ったといった話が多く出回っていたという。

また盗難も多く見られ、無灯火で深夜出回ると複数人に取り囲まれ捕縛や袋叩きにあうという例も多く発生したことが当時の紙面で触れられている。

現代日本の地震研究に、濃尾地震がもたらした影響はきわめて大きい。しかし、阪神・淡路以降の震度7クラスの巨大地震においては、地理的事情や発生状況などがそれぞれ異なっており、そのたびに「エコノミークラス症候群」「ブラックアウト」「交通インフラ」など新たな問題や課題が噴出している。

また、SNSがより浸透してきたことで、情報の混乱が深刻化している様相も見受けられるのが現代の特徴と言えるだろう。地震についての対策や整備の範囲はきわめて広いと言える。

なお、ある説によれば、過去に南海トラフ沿いで起きた地震の前後には直下型地震が増える傾向にあるとも言われおり、1944年東南海地震と1946年南海地震の発生前後では、三河地震(1945)や福井地震(1948)といったマグニチュード7クラスの直下型地震が実際に発生している。

いずれにせよ、地震大国に住む日本人として身近な対策は日頃から備えておくことに越したことはない。

【参考記事・文献】
能登半島地震は「内陸の直下型地震で最大級の地震」“活断層型の内陸地震”でなぜ津波が起きたのか そのメカニズムを専門家に聞く
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/924813?display=1
10.濃尾地震(1891年)
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/html/tenjikai/tenjikai2008/collection10.html
【ゆっくり解説】明治24年 濃尾地震 ー日本最大の直下型地震ー
https://x.gd/wZlit
死者7千人「濃尾地震」から130年 内陸直下型地震はまた起こるか
https://www.asahi.com/articles/ASPBD2WFDPB4OIPE00C.html

(黒蠍けいすけ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 歌川国利 (1847 – 1899) – 『岐阜市街大地震之図』 (http://morimiya.net/online/ukiyoe-big-files/U782.html), パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=17042753による