事件

異常なファン心理?!同い年のファンからの襲撃「美空ひばり塩酸事件」

わずか9歳という若さで天賦の歌唱力と謳われ、歌謡界の女王と称された昭和を代表する歌手といえば、美空ひばりといえるのではないだろうか。

辛口な話術で知られていた上岡龍太郎が「歌手が上手さを突き詰めていくとみんな”美空ひばり”のようになる」と称するほど、彼女は自他共に認める歌姫として君臨していた。

有名人やタレントにとって、ファンという存在はありがたいものであるが、時としてファンという存在は危険なものともなる。

ある時突然襲われ、被害を受けたという、いわゆる”異常なファン”の事例はこんにちに至るまで数多く存在している。そして、美空ひばりもその被害者の一人である。

事件が起こったのは、1957年1月13日。この日、浅草国際劇場にて『花吹雪おしどり絵巻』が公演されていた最中、出番待ちのため舞台袖に待機していた美空ひばりのもとに、一人の女性が客席から立ち上がり近づいてきた。スタッフが彼女を止めようとしたその時、女性は着用していたコートの中から瓶を取り出し、ひばりめがけて投げつけた。

瓶の中の液体がひばりの顔の左側と服にかかり、「熱い!」という声と共に彼女の顔は焼け、服に穴が開いたのだ。女性は直後に取り押さえられ、警察に引き渡されることとなった。液体の正体は「塩酸」であり、2合ほど薬瓶に入っていたという。

幸いにも、ひばりが顔にドーランを塗っていたことや急いで水洗いされたことによって、痕が残るほどの火傷には至らなかった。

この「美空ひばり塩酸事件」の犯人であった女性は、当時19歳であった美空ひばりと同じ年齢であり、ひばりの熱烈なファンであったことがわかった。彼女は中学時代からひばりの大ファンであり、元々出身地であった山形で働いていたのち、事件を起こす数ヶ月前に上京し都内で住み込みで働いていた。

事件の前日12日、仕事をサボってひばりの舞台を観劇したが、その日の帰りに薬局で塩酸を購入しており、メモ帳には《あの美しい顔 にくらしいほど 塩酸をかけて 醜い顔にしてやりたい》と走り書きがされていた。


元々彼女は、ひばり宅に何度も電話をかけるなど、いわゆる行き過ぎたファン行動も行なっていた。仕事に対する不満もあったのか、「世の中がいやになった」という書き置きが勤め先の社宅から見つかり、事件直後に捕まった際は、半狂乱になって「死にたい」と泣き叫んでいたという。

犯人の女性は、特に地元新聞で大きく取り上げられ、顔写真と実名報道により「塩酸少女」として県下に知れ渡っていた。1966年にこの女性の母親が亡くなったそうだが、自殺だったのではないかという噂が近隣で広まっていた。

襲撃でショックを受けた美空ひばりであったが、その後2週間ほどして復帰も果たし、犯人のその後の報道は全国的にはなれなかった。しかし、この事件後には有名人を標的とした模倣とも言える事件が立て続けに起こることとなってしまった。

事件の一ヶ月度には、女優の京マチ子に対して「硫酸をかけてダイナマイトで吹き飛ばす」といった脅迫文や電話があり、3月には無賃乗車で逮捕された少年がナイフを所持していたことが判明し、「歌手の島倉千代子を刺すつもりだった」と供述した。

塩酸をかけた女性の犯行動機は、同い年でありながら自分のおかれた環境の違いを思い知らされたことによる嫉妬だと言われている。可愛さ余って憎さ百倍という言葉があるように、熱烈なファン感情が何らかの拍子に反転し、それが憎悪として働いてしまったという面は見て取れるだろう。

その一方で、自分の生活から自暴自棄となり、自らと共に転落していくよう道連れにしようとした心理もあったのかもしれない。因みにこの事件後、美空ひばりを寵愛していた山口組三代目・田岡一雄がこの事件後、ひばりの公演に田岡自身がいつも付いて回るほか、組の若い衆を増員させて厳重にガードさせたという。

美空ひばりは、山口組差配のための稼ぎ頭の一人でもあった。

【参考記事・文献】
美空ひばり塩酸事件の犯人は少女!犯行動機とその後も総まとめ
https://newsee-media.com/misora-hibari
【襲われた芸能人列伝】美空ひばり塩酸事件、意外な犯人と異常な犯行動機とは
https://www.excite.co.jp/news/article/Real_Live_48775/
山口組三代目と美空ひばり、その宿命的関係【ヒップの誕生】Vol.26
https://www.arban-mag.com/article/71439

(黒蠍けいすけ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 ウィキペディアより引用