妖怪・幽霊

「宮﨑勤事件」被害者の霊がトンネルに出るという噂はなぜ生まれたのか?

1988年から翌年にかけて、東京・埼玉で4人の女児が殺害された連続幼女誘拐殺人事件。この事件はその凄惨さもさることながら、犯人である宮﨑勤の来歴がクローズアップされていく中で、マスメディアによる「おたくバッシング」発展につながるなど、社会的にも大きな影響を与えることとなった。

日本中を震撼させたこの痛ましい事件は、2008年に犯人の死刑が執行されたことで終焉した。

この宮﨑勤の事件には、それに絡んだとある都市伝説いわば怪談が存在する。都内八王子市にある旧小峰トンネルあるいは小峰峠に手首が無い幼女の幽霊が出ると噂されている。この場所は、事件の被害者である幼女が殺害されその後遺棄された現場であり、幽霊の正体は殺害された被害者の幽霊ではないかというのである。




この話は現在でも、旧小峰トンネルにまつわる逸話として紹介されることが多く、そのセンセーショナルな背景から有名なものともなっている。この事件の被害者のうち2人が、88年小峰峠付近で殺害されていたのは事実であり、そして4人目の被害者の遺体が首手足を切断されて遺棄されていたことから、非常に信憑性のある話とも聞こえるだろう。

だが、この話は果たして本当なのだろうか。まず、前者2人の遺棄場所は峠付近とは言えかなり距離が離れており、また首手足を切り離された被害者に至っては、現場が江東区であって小峰峠付近ですらない。手首の無い幼女となるとこの4人目の被害者を思わせるが、旧小峰トンネルとつなげるのは非常に無理があるのだ。

元々この幽霊話は、佐木隆三著『宮﨑勤裁判』(1991)の記述が発端であると言われている。この著書の中には、89年の春ころから小峰峠に手首の無い幼女の幽霊が現れ、犯人の逮捕後には現れなくなった、という旨の記載があるのだ。また、この話は宮﨑勤の父が発行していた地方紙にも掲載されていたとも言われているが、その内容はタクシー運転手が夜間トンネルに差し掛かるところで女性を目撃し、停車すると姿が消えていたという内容であり、手首の無い幼女とは全く異なっている。

そもそも旧小峰トンネルは、宮﨑事件以前から心霊スポットとして知られていた場所でもあった。宮﨑勤の被害者の幽霊というのは、前述の著書がきっかけとなって尾鰭のついたものであったことは充分に考えられる。


しかし、宮﨑勤の被害者の幽霊に関する話はさらに派生を生むこととなった。この事件とトンネルにまつわる話をネットで検索して「あれ?」と思った人も多いだろうが、この話にまつわる舞台が「旧吹上トンネル」として紹介されているページもあるのだ。旧吹上トンネルは、都内青梅市に存在するトンネルであり、こちらも心霊スポットとして知られている。だが、こちらのトンネルは事件と全く無関係である。

実は、旧吹上トンネルが現場として紹介されたきっかけは、稲川淳二であったようだ。彼の話す怪談に旧吹上トンネルにまつわるものがあり、そこで話される背景の描写が宮﨑勤の事件との類似性を強く匂わせるものであったため、現在に至るまでに混同を招いたものと考えられている。畢竟、手首の無い幼女の幽霊というのは、事件に無理やり紐づけされた創作である可能性がきわめて高いと言わざるを得ない。

もっとも佐木の著書では、逮捕後に幽霊は出なくなったと言っているため、いずれにしろ現在現れるはずは無いのであろうが。

【参考記事・文献】
旧小峰トンネルはなぜ心霊スポットに?連続殺人事件の背景や行く時の注意点も!
https://shiori-tabi.jp/posts/16223
小峰峠の幽霊
http://std2g.web.fc2.com/yu-rei/yu-rei.html

(ナオキ・コムロ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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