妖怪・幽霊

【実話怪談】『こっちからいくぞ・・・』<中編>

【実話怪談】『こっちからいくぞ・・・』<前編> より続く

それから1ヶ月ほど経ったころ、Sさんは勉強机に向かい宿題をしている最中に眠気に襲われ、机に伏せる形で眠ってしまっていた。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。

「おーい、こっちへこいよ」

Sさんは声に耳をすませてみた。その声は、開いているふすまの向こう、台所の方から聞こえてくる。




Sさんがそちらに顔を向けてみると、そこには人の形をした黒いもやのようなものがいて、それが手招きしているように見えた。その手招きに導かれるように、Sさんはふらふらと台所の方へ歩き出した。

部屋の床では弟が寝転びながら漫画を読んでいた。Sさんは弟をまたいで黒いもやの方に向かおうとした。

(早くいかなきゃ)

そう思いながら、弟をまたぎかけたとき、急に弟が立ち上がった。

(あぶない! ぶつかる!)

驚いた瞬間、今置かれている状況に気がついた。Sさんはまだ机にいて、眠りから覚めたところだったのだ。

「おい! オレいまお前の上を通ろうとしてたよな」

弟にそう確認してみた。




「何言ってるんだよ。兄ちゃんはずっと寝てたじゃないか」

その言葉を聞いて、Sさんはわけがわからなくなった。Sさんは弟が何の漫画のどの話を読んでいたのかも覚えていた。

確認してみるとそれは確かに符合した。しかし、位置関係的にそれは机にいたままでは確認できないはずだった。夢と現実が入り交じったような不可解な体験をしていたことに、思わず鳥肌がたった。

もし、あのもやのところまで行っていたら一体どうなっていたのか、そう考えると震えが止まらなくなってしまった。

(※続く)

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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