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ギリシアと日本の伝説が完全一致?!「オデュッセイア」と「百合若大臣」の謎

百合若大臣は、室町時代に成立した百合若という名の架空の武者を主人公とする物語である。幸若舞(こうわかまい)や浄瑠璃などの題材となり、大分県や壱岐(長崎県)にも伝説として伝わっている。

弓の達人で鉄の弓でも引けるほどの腕前を持つ豊後の右大臣百合若が、攻め込んできた蒙古の撃退の命を朝廷から受け見事これを果たした。しかし、激戦の末に疲れ果てる中、戦果を自分たちのものにしようと裏切りを図った部下の別府兄弟によって、無人島に置き去りにされてしまった。

百合若が帰ってこなければ自殺しようと決心していた妻は、身辺整理をする中で鷹の緑丸も放ったが、なんと緑丸が百合若のいる無人島を探し出すことに成功し、百合若の生存を確認することができたのだ。正月、別府兄弟の屋敷において宇佐八幡宮への奉納の弓始めが行なわれる中、苔丸と名乗る異様な風貌の男が現れた。


実はこの男こそ百合若であり、彼は漁師の船によって脱出に成功していたのだ。彼は鉄の弓を持って引きを絞り、「我こそは百合若なり。裏切者どもよ、思い知るがよい」と叫び、ついに復讐を果たすのであった。

この『百合若大臣』の物語は、かねてより古代ギリシア叙事詩『オデュッセイア』と共通していることが言及されていた。『オデュッセイア』は、島国イタケの王オデュッセウスが、トロイア戦争終結後に神々の陰謀によって多くの困難を乗り越えながらも故郷に戻り、妻に求婚を迫っている男たちを粛清する帰還物語となっている。これだけでもおわかりだろうが、物語の筋書きが非常に酷似しているのである。

百合若大臣でもにおいても、裏切った別府兄弟の太郎が百合若の妻に恋愛を迫っている描写があり、オデュッセウスも終盤には老人に化けて妻の夫を決める競技に潜入しており、しかも使用したのは弓であった。

これだけではない、主人公オデュッセウスはラテン名は「ユリシーズ」であり、故郷に戻ろうとする彼を助けた女神アテネのラテン名は「ミネルヴァ」である。ユリシーズと百合若、ミネルヴァと緑丸、このように名前についても関連が見られるのだ。しかも女神アテネの象徴は猛禽類のフクロウもしくは鷲とされており、鷹とのつながりが色濃く見える。




この両者の類似性については、坪内逍遥によって発表された「百合若伝説の本源」を発端として長きに渡り議論されてきた。偶然・こじつけであるという見方からすれば、両者の類似性が問われるのと同時期である20世紀の初頭では、このほかにも毛利元就の三本の矢の物語とイソップ寓話とに類似性が見られるなど、日本文化とヨーロッパのそれを連結させようとする風潮が学界において起こっていたとされており、当時の脱亜入欧の思想による影響ではないかという。

だが一方で、伝来の時期的に可能であるという主張もある。当初はポルトガル宣教師の来日が由来と考えられており、その時期と最初の上演時期があまりに短いため、伝播は不可能ではないかとも言われていた。しかし、宣教師が訪れるよりも以前に百合若大臣に関する朗読の記録のある歌集が発見されたため、その不可能性は否定されつつあるのだ。

一般的にはこじつけと見なされている両者の類似性であるが、モチーフや筋書きなどの共通項については、他の物を圧倒するほどに多いとの見方もある。これほどの関連性を果たして偶然と片付けて良いのだろうか。

【参考記事・文献】
蒙古襲来の復讐譚『百合若大臣』と古代ギリシア叙事詩『オデュッセイア』の奇妙な共通点
https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/135766/
『ユリシーズ』と『百合若大臣』(その一)
https://classicistyasu.amebaownd.com/posts/6443278

(ナオキ・コムロ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 ウィキペディアより引用