『となりのトトロ』と言えば、スタジオジブリを代表する名作であることは誰もが知るところだろう。作中で森の主として登場するトトロは、現在ジブリのシンボルマークにもなっており、その愛嬌から皆に愛されるキャラクターとなっている。
ジブリ作品は、裏設定と呼ばれるものが非常に多く流布されており、『となりのトトロ』も例外ではない。特に、不穏とも言える都市伝説が多く囁かれているのだ。その最たるものは、登場人物のサツキとメイがすでに亡くなっているという死亡説である。
サツキとメイ死亡説については、アニメ内にそれを暗示させるような描写が多いと言われ、
・サツキとメイの影が登場ごとに薄くなっている(もしくは後半影が無くなっている)
・迷子になったメイの座る地蔵の中に“メイ”の名前が刻まれている
・ラストの母の言葉「サツキとメイが笑ってるような気がする」というセリフがもう存在していないことを示している
といったものが指摘されている。
ネコバスは、宮崎駿の見解では化け猫であるということは聞かれているが、行き先に「墓道」という表示を含むネコバスは冥界の使いではないかとも言われている。また、トトロは死神「トロール」であり、EDの歌詞にある「子供の時に見え」る点にしても、サツキの同級生であるカンタに見えていないことから、死期が近づた者にしか見えないのではないかとも囁かれた。
さらに『となりのトトロ』は、実際の事件がモデルになっているとも言われている。1963年の5月に発生した「狭山事件」は、下校途中の女子が身代金目的で誘拐され、また張り込んだ警察のミスにより犯人が逃亡、女子も殺害されてしまった事件である。事件の起こった5月が、「サツキ(皐月)」「メイ(May)」と通じており、のちに自殺した姉が「ネコとタヌキの化物を見た」と証言していたとの噂もあり、これがネコバスやトトロに関連しているのではないかというのである。狭山市の隣にある所沢市は、となりのトトロの舞台のモチーフになったということもあり、事件とこの作品の関連性は今でも強く唱えられるに至っている。
しかし、これらの死亡説や狭山事件説は現状として確実なものはほぼ無いと言わざるを得ない。アニメ内の影については「時間帯を表す」ための演出にすぎず、地蔵にメイの名前も確認できない。母のセリフも、ネコバスに乗車していることからサツキとメイの姿が見えなくなっていると考えれば説明がつくのだ。
狭山事件に関しても公式が否定している。それどころか、被害者の姉がしたという化物の証言は実際になされたという根拠が無いうえ、そもそも被害者にいたのは姉ではなく兄であるという。この狭山事件との関連を示す多くは、『となりのトトロ』と接点を持たせるために、事実と異なる事象を無理やり付加されたと見た方が良いようだ。
それにしても、なぜ『となりのトトロ』にこれほどの都市伝説が付きまとうようになったのだろうか。一つには、作中に「死」を匂わせるような描写が目につきやすいということにあるだろう。母親が結核を患っているという設定もそうだが、誰のものかも判らないサンダルが池に浮かび、終盤の夕刻に映し出される地蔵の怪しげな情景、何より親の目を離れて子供だけが見ず知らずの場所に迷い込む姿、あらゆる点に不穏な雰囲気をもたらす材料が散りばめられているのは事実なのだ。
さらに、この『となりのトトロ』都市伝説のきっかけとなったと思われるものもある。2001年に出版された文芸評論家清水正の著書『宮崎駿を読む』の中に次のような文章がつづられている。「結核療養所に入院したお母さんは病死、メイはお母さんを追って水死、もしかしたらお姉さんのサツキでさえ生命を失っているのかもしれない。
この悲惨で救いようのない現実を体験したお父さん、たった一人”こちら側”に残されてしまったお父さんが、この『となりのトトロ』を作った」。これはあくまで著者の解釈にすぎないものではあるが、この実際の作品とのギャップが『となりのトトロ』都市伝説を形成するに至った可能性は充分に考えられる。2001年という時期がインターネットの普及時期とも重なっており、これが都市伝説を一気に広めた土壌ともなっていたのだろう。
【参考記事・文献】
となりのトトロ 都市伝説
https://ameblo.jp/adltjudu777683/entry-12400491441.html
「となりのトトロ」の都市伝説が生まれた理由を考える。
https://www.sifrinsight.com/urban-legend-of-totoro/#rtoc-5
宮崎駿監督作品『となりのトトロ』にはこんな恐ろしい真実が隠されていた？都市伝説の謎を暴く！
https://type-r.hatenablog.com/entry/20120713/p1
（ZENMAI 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部）
