『注文の多い料理店』『銀河鉄道の夜』『雨ニモマケズ』などで知られる宮沢賢治は、日本を代表する詩人・童話作家として、現在でもきわめて人気が高い。2023年に上映された『銀河鉄道の父』(原作:門井慶喜)は、父親の視点から描いた賢治や家族を描く作品として話題となったほど、彼はその人間性や作品を通して今もなお人々を魅了する人物である。
そんな宮沢賢治は、とても奇行が多いことでも知られている。小学生時代、彼の友人が廊下に立たされ両手に水の入ったヤカンを持たされていた時、彼は「つらそうだから」という動機でその水を全て飲み干したという。ただ、このような逸話については、彼の持っていた仏教の信仰もあり「仲間思い」という風に見ることはできるだろう。だが、当然ながらこれだけではない。
彼が農学校に勤めていた際、生徒たちと共にスイカを栽培していたが、出来上がった数十ものスイカを開いてみると、いくつかは中身が空っぽであったという。実は賢治がストローをすいかにさして中身を吸っており、「こうした方が一番おいしい」と言っていたという。スイカにストローというのはかなり非現実的に思えてしまうので、この逸話がどこまで信憑性があるかは不明であるが、仮にこれが創作であったとしても、それが「彼らしい」と思わせる火種が備わっていたことは間違いないようだ。
また、彼は意志がそれほど強くなかったのではないかというエピソードもある。法華経の説話に感銘を受けて、友人宛の手紙でベジタリアンになることを宣言した賢治であるが、「今日はマグロを食べてしまった」「今日は豚肉を食べてしまった」などの敗北報告を友人に逐一送っていたという。彼なりの反省の仕方であったのかもしれないが、明らかに送る必要のない手紙でもあり友人もさぞ困惑していたであろう。
そんな宮沢賢治は、ハマったものにはとことん入れ込んでいたようである。彼はさまざまなコレクションも多かったようだが、クラシックの中で、特にベートーベンに対してはかなり強烈であったという。宮沢賢治の有名な写真の一つにうつむいて歩く姿の物があるが、これは画家ユリウス・シュミットによって描かれたベートーベンの絵画のポーズを真似たポーズであるという。
さらには、レコードでベートーベンの曲を聴いている最中に興奮して声を上げたり、あまりに高揚しすぎて蓄音機のラッパに頭を突っ込んだり、といった行動をとっていたことが、いとこ宮沢幸三郎が自著で語っている。
さらに、彼のコレクションで忘れてはならないのは浮世絵、それも春画である。「性欲は人をダメにする」とまで言っていた彼であるが、春画のコレクションは積み上げると30セントメートルほどの高さにまでなったといわれ、それを同僚たちと批評しながら鑑賞していたという。
生涯童貞を貫いたと言われる彼であるが、性に対する関心はきわめて高かったようであり、イギリスの医師ハヴロック・エリスの著書『性の心理』は一時期熱心に読んでおり、日本語訳で伏せ字になっている部分がどうしても読みたかったがため、原書まで買い込んだほどである。この本について聞かれた際に彼は、「子供たちが問題を起こさないように教えるため買った」「大人の童話みたいなものだ」「誰かを傷つけているわけではない、悪いことではない」と、言い訳にも思える応答をしていた。
聖人的な見方をされることもある宮沢賢治であるが、このようなある意味では人間くさく、ある意味では非常に不器用であったあらゆる面が、豊かな表現に根差した彼の数々の作品を生み出す源泉となり得たことは間違いないだろう。
【参考記事・文献】
文豪たちも人間!大作家たちのどうかしてる逸話とは!?
https://books.j-cast.com/book038/2021/02/14014406.html
ガチ勢すぎる!宮沢賢治は極度のベートーベンオタクだった
https://zatsugaku-company.com/miyazawakenji-beethoven/#st-toc-h-2
宮沢賢治は春画コレクター! 川端康成は借金大王!!――『文豪どうかしてる逸話集』
https://getnavi.jp/book/477756/
(ZENMAI 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像 ウィキペディアより引用