かなり前の話なんですけど…。
カメラ好きの俺は、11月の前半、紅葉の写真を撮りに、京都は高尾という所へ、バイクで出かけた。やはり、シーズンというだけあって、国道162号は渋滞、バイクにして良かった と思いながらあちこち写真を撮ってまわった。
休日ということもあり、人があふれうっとうしい位。もっと静かな所で、いい撮影ポイントが無いか探しながら、国道を若狭方面へ、北山杉を見ながらバイクで走った。
傘トンネル付近にさしかかった時、左側に、旧道が有るのを、思い出した。今は使われていない傘峠道である。俺は、途中いい風景があれば写真を撮ろうと、傘峠へと向かった。
もう何年も車が走っていないせいか、道は崩れアスファルトはガタガタ。この旧道(廃道)自動車じゃ無理だなぁ、と思いながら途中紅葉の写真を撮り峠道を上った。やはり気温が低い事もあり、葉っぱがいい色合いをしていた。
峠にさしかかると、昼間だというのに薄暗く、道は黒い土と腐った葉っぱでぬるぬるし、アクセルをふかすと後輪が横滑りする状態だった。丁度、峠の真ん中付近に来た時だった。道が高さ2メートル程で、石積みによりふさがれている。まるでバリケードの様に向こう側へ行けなくしてあるのである。
その時だった。
その石積みの上に小学生2~3年位の男の子が立っていた。半ズボンで白いランニングシャツ一枚。手にはお菓子が入った透明のビニール袋を持っている。
その子も俺がバイクで近づいて来るのを見ていた感じだった。その子に話しかけようとヘルメットを脱いだ。
あれぇ?男の子が居ない?
石積みの向こう側にでも降りたかな、と思うと同時に、「今11月やぞ!何で半ズボンにシャツ一枚なんや?えぇ?」って感じだった。俺はバイクを降り、そのバリケードの向こうをのぞこうと石積みに近づいた。そこで驚いて2、3歩下がった事を覚えている。
その石、ほとんどが墓石だった…。何でこんな形で墓石で道をふさぐのか、何か意味ありげに思った。と同時に、「今の男の子はこの世の者じゃなかったのか」という事に思い至った。
普通の人なら気味が悪いと思い帰るんだろうが、俺はこの向こう側の道が気になったので、峠を向こう側から上ろうと今来た道を引き返した。
傘トンネルに入った。2サイクルエンジンの音がトンネル内にこだまする。トンネルを抜け、すぐに右折した。すると、パトカーが止まっていて、警察官が何人かいる。一般車両も止まっていた。
何か事件か?
謎はすぐに解けた。そこは、京都方面に向かう通行車両に対する速度違反の取り締まり中。つまりねずみ取りのサイン会場だった。それを横目に傘峠を上った。
しばらくすると墓石による石積みが見えて来た。別に変わった様子も無く、また男の子も居なかった。後にこの付近に住んでいる友人に峠の墓石について聞いてみた。
詳しくは知らないが、このトンネルを掘るにあたりお墓を移動したらしい。そのお墓の残骸かも?という話だった。
丁度、若狭方面側のトンネル入り口上部あたりに昔お墓があったとの事。でも墓石によるバリケードの事は知らない模様だった。
やはり何か意味があったのだろうか?あの男の子と何か関係が?個人的には非常に妙な体験だった。
(怪談師 渋谷泰志の実話体験談より)