ミステリースポット

「死者の声」(その2)

大阪の圭子です。次は、霊体から挨拶された話です。

今から28年くらい前のことです。当時私は、母方の祖母が入院している田舎の病院に、祖母の付き添いとして出入りしていました。

夕方から朝まで、脳梗塞で寝たきりとなった祖母のベッドの傍らにいて、ちょっとした世話をするのです。深夜はいつも、祖母が寝入ったのを見届けてから、単行本を手に1階の自販機コーナーへ行っていました。だいたいが午前2時過ぎだったと思います。

自販機コーナーは夜間も明るくベンチもあって、缶コーヒーを飲みながら本を読んで時間をつぶすにはもってこいの場所でした。霊安室が通路を挟んで隣りにあるためか、夜間は利用する人に出くわしたことがなく、私にとっては一休みする恰好の場所になっていました。

いきなりです。

「こんばんはー」男性の朗々とした声が、自販機コーナーの出入り口から聞こえました。見ると、80歳を過ぎた感じの、とても背の高いおじいさんがニコニコしながら立っているではありませんか。



覗き込むようにじっと私の目を見てくるおじいさん。いつの間に?私は少し違和感を覚えました。おじいさんは帽子を被り、黒縁の眼鏡、グレーのブルゾン、セーター、茶色のニッカポッカ、深緑のハイソックス、登山靴、杖。季節は夏です。

いくら寒がりでも、このいでたちはちょっと異様です。感覚的に関わりたくないと感じましたが、当たり障りのないように「こんばんは」とだけ挨拶して、また本を読み始めました。このおじいさんも付き添いかもしれないし、田舎では、何処でどう人が繋がっているか分かりませんから、無碍に出来ないのです。

無愛想だったかなと思い、ちらっとおじいさんの方を見たら姿がありません。挨拶してまだ数秒しか経っていないのに…急いで自販機コーナーから出て見回しましたが、おじいさんはどこにもいませんでした。

もしかして、生きた人ではなかったのか。私はハッとしました。

おじいさんが立ち去るのに、音が全くしなかったからです。その場所からは、左右どちらに行っても引戸があって、開けたらサッシのカラカラすべる音がしますし、床はワックスがかかっているので、歩くとギュッギュッと鳴り響き、音なく移動するなんて出来ませんから。

私には見覚えのない顔でしたし、何をしに現れて来たんでしょうね?イタズラか、まさかのナンパ(笑)?挨拶だけで済んで、良かったと思いました。

以上です。

(アトラスラジオ・リスナー投稿 大阪の圭子さん ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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