妖怪・幽霊

【ゆめこの怖い実話】目的地に行ってくれないタクシー

亜里沙さんは新宿から私鉄で30分ほどの場所に住んでいる。その日は土曜日だったが休日出勤、しかし翌日は日曜日の完全休日だったので同僚と遅くまで飲み、終電で帰ることになった。

亜里沙さんの家の最寄り駅には普段からタクシーの数が少なく、さらに深夜近くなるとタクシー待ちの列ができていることが多い。今日も覚悟して駅前にいくと、その日は珍しくタクシー待ちの列がない。中年の女性が1人立っているだけだ。

ホッとして、タクシー乗り場へ向かおうとすると、階段をかけおりてくる足音が聞こえ、亜里沙さんを追い越して会社員風の男が中年女性の後ろに並んだ。




呆気にとられると同時に少々ムカついたが、まあ二人だけだしそんなに待たずにすぐタクシーに乗れるだろうと思い、亜里沙さんは男の後ろに並んだ。程なく一台のタクシーがやって来て中年女性を運んでいった。

一台目が去って15分待った頃、後ろで駅の階段のシャッターが大きな音を立てて閉まった。振り向くと駅員が点検しながら構内の事務所に入っていく。

ふと心細くなり、少しだけ怖さを感じた亜里沙さんは携帯で母親に連絡をした。するとタクシーのヘッドライトが見えた。やってきたタクシーにあの嫌な会社員が乗り込む。会社員が乗車したタクシーを見送りながら、ふと思った。

(普段より待ち時間が長いな)(いつもはもう少しタクシーの回転数が早かったのではないか・・・しかも、最初のタクシーが黒。今のタクシーも黒。いつもは緑や黄色のタクシーなんかもいたのに、今日に限ってなぜ黒ばかり。土曜日深夜なので、まさかタクシー一台で使い回し?)




20分くらいたつとようやくタクシーがやってきた。黒のタクシーだった。やっぱり、一台きりで営業してたのだろう。亜里沙さんはタクシーに乗り、行き先を告げた。

「○○町まで」「××重機へお願いします」

亜里沙さんの自宅に近づいたので、目印になる某有名メーカーの建設機械置き場を運転手に告げた。亜里沙さんの自宅は、建設機械置き場に隣接した小さな用水路を渡った農道沿いにあり、車は入れない。

「お仕事大変ですな。夜勤?」

運転手が話しかけてきたが疲れていて面倒なので亜里沙さんは「はい」とだけ答えた。そして車は建設機械置き場に近づいたので財布からタクシー代を出そうとしていると運転手が言った。

「お客さん××重機の人?」

(お節介だな。一体何が言いたいんだろうか)

「いいえ!違います!」

と強く言うと、なんとタクシーは建設機械置き場を通過していく。驚いた亜里沙さんは「あっ!ここです!」「運転手さん、ここで止めてください!」

カチンときた亜里沙さんがそう言うと、運転手は走りながら「お客さん、先週もこの車に乗ったでしょ?」と言った。そういう間にもどんどん走って家から離れていく。

(確かに先週もタクシーを使ったが、それがどうかしたのか?)

わけがわからず頭がパニックとなった亜里沙さん。2、3分たったろうか。国道を走るとコンビニの灯りが見えてタクシーは駐車場へと入った。そしてタクシーを止めると振り向きざまに運転手がいった。




「ごめんなさい、お客さん!でもね・・・」

運転手は名刺をとりだし、「もし気分を害したのならば、会社に私の名前を伝えて電話して構わないから」と前置きしていった。

「実は、お客さんの前に男を乗せたんだけどね」

(ああ、あの自分を追い越した会社員だ)

「その男がね、同じ場所、××重機で降りたんだよ」

XX重機への道すがら、タクシーの中で男は携帯で「もうすぐ着く」「何分後だ」と誰かと話していたという。

そして運転手が続けて言うには、亜里沙さんを乗せて、さっき××重機の事務所の前に来ると、もう既に電気は点いていなかった。そうか、じゃああの男もここの社員じゃないんだろうな、と考えてたら、道の反対側にワンボックスが一台停まっていたのに気がついたそうだ。

「中には4人くらい乗ってたかな。それがこのタクシーのヘッドライトが当たるとね、全員がサッと隠れたんだよ。怪しいだろ?しかも運転席にいたのは、間違いなくあの男だったからね」

亜里沙さんはタクシー待ちの列に並んでるときに携帯で母親に話したことを思い出してゾッとした。

「うん、今駅。タクシーに乗るから~。××重機まで」

(夏目夢子 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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