これは昭和の末期、62年に愛知県の某市で発生した「珍事件」である。
1987年2月5日、愛知県内にある小学校の理科準備室を荒した罪で、近くに住んでいた中学三年生の男子生徒二人が不法侵入罪の罪で補導された。この生徒二人は2月1日、深夜2時頃、小学校に潜入し二階の理科準備室にある硫酸と塩酸、その他の薬品を、それぞれひとビンづつを奪って逃走した。
硫酸といえば、一般的に強い酸の力であらゆるモノを溶かす劇物として知られている。硫酸は腐食性が強く、皮膚に触れた場合は焼けただれ、誤った使用により人を傷つける武器として使われることもある。
一体、何故、彼らはそこまでして硫酸を手に入れたかったのか…。
その後、彼らが盗んだ硫酸を持って向かった先は…小学校の近くにある、深夜のおもちゃ屋さんだった。なんと、生徒らは閉店中のおもちゃ屋さんの鉄板製のシャッターを濃硫酸で溶かし、お店の中にあるゲーム機(ファミコン)を強奪しようと画策したのであった。
しかし、しょせんは中学生の浅知恵。7cmもの厚みがある鉄板性シャッターを溶かすには硫酸のビンひとつでは到底足りず、シャッター表面が少し焦げただけだった。その結果、彼らはその場から逃走し、余った薬品はおもちゃ屋から少し離れたため池にまとめて捨てたことから足がつき、3日後にあえなく警察に御用となった。
1987年といえば、世の中はファミコンを代表とする「テレビゲームブーム」のブーム真っ最中で、翌年の1988年には日本全国でファミコンソフト『ドラゴンクエストⅢ』を狙った強盗や、『ドラクエ』を巡ってナイフで刺すような兄弟喧嘩事件が発生するなど、テレビゲームをきっかけにした少年犯罪は当時、大きな社会問題になっていた。
なお、硫酸といえば、昭和のアニメや特撮ではお馴染みの必須アイテムで、昭和のロボットアニメ『マジンガーZ』は「ルストハリケーン」という突風と共に口から濃硫酸を散布する必殺技をもつほか、特撮ドラマ『仮面ライダーV3』に出てくる「ライダーマン」が右腕を失ったきっかけは硫酸のプールに落とされたためであった。
おそらく彼らも、アニメや特撮の知識で「なんでも溶かす液」として硫酸を思いつき、そして盗んだと考えられるが、現実はテレビゲームのように甘くはなかったようだ。
(文:穂積昭雪 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像『新 仮面ライダーSPIRITS(6)特装版 (プレミアムKC 月刊少年マガジン)』