Yさんは連日飲み過ぎで、胃が重く爛れているような感じがしていたので、胃薬のひとつぐらい良いだろうと思い、店を出た後にでも飲もうと自分のバッグに入れた。
Oさんが目を覚ました。「閉店時間過ぎてるから出るよ」と促すと、Oさんはフラフラしながら出る準備を始めた。そしてカバンをがそごそとやり、急に良いが醒めたようになり、カバンの中身をあせったようにかき回し始めた。
明らかに何かを探しているようで、特にポーチの中身を気にかけているようだった。しばらくそうしたあと、Oさんはあきらめたように外に出ていった。いつもならそこで終わるような時間でもなかったが、Oさんは家に帰ると言って、タクシー乗り込んで行った。
YさんはOさんの行動パターンの秘密はこの薬にあるのだと思った。
バッグから薬を取り出しよく見てみると、ローマ字で識別番号のようなものが書いてあるのがわかった。Yさんはその文字と包み紙を医師の知り合いなどにも見せたがわからなかった。
Yさんは薬のことをOさんに言わなかった。Oさんが必死に探している様子を見て、罪悪感に駆られ薬を取ってしまったことを言えなかったのだ。
Oさんは相変わらず遊び続け、ますます痩せていっているようだった。だが、ある時からその痩せ方も異常なものに思えて来た。スタイルが良いというよりも、もはや痩せ過ぎで不気味だった。それに痩せて行くペースも早すぎるように思えた。
日に日にOさんは痩せて行き、常に「寒い寒い」と言うようになった。春から夏に季節が移り変わろうという時期なのに、寒そうに始終体をさすっていた。
Yさんは「寒いならもっと温かい恰好したほうがいいんじゃない?」と進めたのだが、Oさんはそうしなかった。
そして、夜になると露出の高い服で夜の町に繰り出していた。その姿はセクシーというよりも醜悪だった。マッチ棒みたいな手足と、肋骨がくっきりと浮き出た体を見せつけているようで、どこか狂気的な感じがした。
言い寄る男もいなくなった。「あの店には不気味な店員がいる」との噂が流れた。明らかにOさんのことだった。
(※続く)
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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