鍛冶が嬶は江戸時代の書物「絵本百物語」にて紹介されている妖怪である。
ある旅人が夜中に山越えをしようとしていたところ、山道で狼に遭遇。慌てて高い木の上に逃れるものの、狼達は互いに肩車しあってどんどん上の方へ登っていき、旅人まであと僅かの所まで辿り着いてしまった。すると、狼達は口々に「佐喜浜の鍛冶が嬶を呼んでこよう」と言う。
しばらくすると、ひときわ大きな白い狼が姿を現し、狼達の肩車のてっぺんに登って旅人を食おうとした。旅人は思い切って護身用の脇差しで白い狼を斬りつけると、大きな叫び声とともに狼の群れは崩れ、どこへともなく消え去っていった。
朝になり、旅人は無事に町へ着くことが出来たので、狼達が言っていた佐喜浜という所の鍛冶屋を訪ねてみた。すると、その家の老婆が怪我をして寝込んでいるという。実は老婆は大きな白い狼が成り代わっていたもので、床下を探すとおびただしい数の人骨が出てきたという。
「絵本百物語」では、狼に食い殺された女性の念が狼につき、群れを率いて人を襲うようになったものとしている。
(田中尚 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像©Wikipedia 竹原春泉画『絵本百物語』より「鍛冶が嬶」