千山鯉は江戸時代の思想家、平田篤胤が天狗にさらわれて天狗の世界にいき、修行までしたという少年・天狗小僧寅吉から聞いた言葉を記した書物「仙境異聞」に出てくる妖怪。彼の言によれば、龍に近い生き物だという。
龍は鯉が滝を上って昇天したものであるが、この千山鯉はもと魚であるにもかかわらず、滝を上る勢いで山に這い上がって住み着く。そして普段は「草原にころころして(原文まま)」いるが、日が経てばやがて丸い形となり、鰭も四つの足になって甲を生じ(亀の足のように、より歩行に適した堅い皮膚を持つという事だろうか)、鱗の間からは毛も生えてきて、山の水たまりに子供を産み落とすようになるという。
なお、龍の元になる魚が鯉であるように、この魚も元は鯉なので、肉や内蔵は鯉に似ている(おそらく食用にもなる)と紹介している。
寅吉は「こういう変わった生物は中国だけにいるわけではない」とも称している。日本の妖怪や幻獣の伝承は中国から伝来したものが非常に多いため、そのように称したのだろう。
ちなみに「仙境異聞」にはこの千山鯉の絵があるが、これが非常にゆるいタッチで描かれた優しい目のマスコットキャラクターのような外見をしている。なるほど、このような妖怪であれば「草原でころころ」していると言われても納得の外見かもしれない。
(田中尚 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像©PIXABAY