以前に浅田次郎の小説『蒼穹の昴』がNHKでドラマ化された際、西太后を演じた田中裕子の熱演ぶりに驚嘆の声があがり、久々に西太后に注目が集まった。
しかし、彼女には数々の不気味な噂がある。有名なところでは、「葉赫那拉(エホナラ)の呪い」 と「人間豚」の噂が想起される。
まず「葉赫那拉の呪い」の物語は、清国の立国まで遡る。
葉赫那拉とは満州民俗の氏族の1つでイェヘ部の首長を輩出した家系の事である。
清の建国者・ヌルハチに最後まで徹底抗戦したイェへ部の最後の首長、金臺吉(ギンタイジ)は、死ぬ間際にこんな呪いの言葉を吐いた。
「ヌルハチの一族に、葉赫那拉の人間が一人でも加われば、その者がヌルハチの一族を滅ぼすであろう」
という恐ろしいものであり、清朝は代々この呪いの言葉を言い伝え、葉赫那拉氏の女を后妃にしないという掟が守られた。だが、清朝末期の咸豊帝が誡めを破って葉赫那拉氏の女、つまり西太后を妃にした。
結果的には、咸豊帝の死後、西太后は権力をほしいままにし、清王朝を滅ぼしてしまった。これが「葉赫那拉の呪い」である。
しかし実際には西太后以前にも、葉赫那拉の女は皇帝の后になっている例がある。また、かつてヒットした映画「西太后」の中でも描写された「人間豚」に関する噂もある。
夫の咸豊帝が寵愛した麗妃の手足を切断し、瓶に入れて生かしておいたという蛮行があったとされている。
だが、これも歴史的事実ではなく西太后を悪人として印象付けたい人々がつくりあげた虚言にすぎないとみられている。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像は『蒼穹の昴(DVD)』ジャケット写真より