三田華子さんの「徳島昔ばなし」(昭和書房)には怪火の話が載っている。その名を「大火」と呼ぶ。
板野郡・大幸村で目撃された怪現象らしく、大幸村が父の実家であった三田女史は、最初父方のおばから聞いたそうだ。大幸村の八丁でんだいというところに大火が出て、いつも決まったコースを走ったらしい。
そのおばが11才、父が9才の頃、外にある便所に二人で出かけた時、村の小さな社に火が見えた。
「こんな時間に、大神宮に行く人があるんかいな」
とおばがつぶやくと同時に火がこっちに迫ってきた。
「あっ大火だ!!」
大火と気付いたおばは、父を共に地面に伏せ、草履を頭にのせた。こうすると怪火は、寄ってこないと、かつて老人から聞いていたのだ。
大火は二人の頭上を通過し、うまめ屋敷という辺りで「ぶーん ぶーん」と旋回していたという。
怖いものみたさで、おばが大火を観察したのだが、一間ぐらいの円で、その中に白装束を来た人が立っているのが見えた。また周囲の色は濃い黄色で、内側は白く光っていた。
いかがであろうか。まるで現代のUFOである。「ぶーん」という音といい、中にいる白装束の人物といい、どうにも怪しい。
昔の文献を紐解いていくと、このような記述に出くわすことがある。「UFO」という概念が無かった時代の人々は、妖怪や怪異など当時の人が知りうる限りの知識をもって自分が見たものを定義づけていたのだろう。
つまり怪奇現象というものは、何者かによって定義づけられて初めて成立するものでもあるのだ。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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