証言者 Nさん 東京都生まれ 東京都在住 男性 編集 40代
その昔、筆者はとある版元さんから「怪談に関する」というムックを発売した。複数のライター、漫画家が参加していたが、筆者はメインライターとして怪談記事の既述を行った。だがこの本の周辺では次々不思議なことが起こったのである。
このムックの企画のひとつとして筆者とつのだじろう先生の対談があったのだが、その当日奇怪なことが起こった。どうも、編集担当のNさんの顔色が悪い。
「なんかあったんじゃないの?顔色が変だよ」
と筆者がしつこく聞くと、自分の周りで妙なことが連続して起こっていると説明し始めた。
「正直、心霊本を作っていながらなんですが、祟りとか障りとか、信じてなかったんですよ。実はこんな事が…」
なんと、数日前にNさんのご身内が亡くなっていたのだ。まだ若い従兄弟が朝、布団の中で変死をしているのがみつかったのだ。
「いや、でもそればかりじゃないんですよ」
なんと、このムックの表紙の制作を担当したデザイナーさんのご身内が、当日緊急手術をすることになったというのだ。
「これはやばいな、霊障のような気がする。信じてないNさん、今度はあなたが報復される可能性すらある」
直感的にかなり危険な匂いを察した筆者は、つのだ先生を見送った後、すぐその収録現場から霊能者に電話入れ、祈祷の依頼をした。
「次は、編集さんに来ますね」
霊能者のこの一言ですっかり震え上がったNさんは、この手の怪談本に対してまったく信じてなかった自分を恥じ、深く考え入った。
祈祷が通じたのか、その後は奇怪な事故もなく、無事販売まで完了したのだが、最後まで霊の怒りは収まらなかったのであろうか。結局、編集担当のNさんとNさんの上司が会社を辞めることになった。Nさんは最後にこう言った。
「結局、偶然と言えば偶然ですが、怪談本が最後の仕事になりました。まあ特に心霊本の件がきっかけでやめるわけではないのですが…。今後実話を取り扱う場合は要注意ですね」
Nさんはその後、転職していった。しかし、その転職先というのは本書を著者にオファーしたR社だったのだ。
「怪談本」の呪いは、Nさんを追跡する。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)
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