少年犯罪としては未曾有の社会問題となった神戸連続児童殺傷事件こと、『酒鬼薔薇事件』。
学校に児童の生首を「声明文」と共に置くというショッキングな行動や、地元の新聞社に向けて手紙が送られるなど、事件に付随して起きた様々な出来事もまた世間の目を引いた。犯人であった少年が考えていたバモイドオキ神という架空の神の存在など、少年の動向や心理状況も話題を呼んだ。なお、現在彼は罪の清算を終えて出所。2015年に手記の「絶歌」を出版、HPや有料メルマガの発信も行ったが、その内容や行動は世間の非難も集めた。
だが、事件が起きてしばらく経った頃は、この間違った行いをした彼を“ダークヒーロー”のように捉えていた同年代の子供達が存在していたという。閉塞感の漂う現代社会において、大人に対して敢然と牙を剥いた彼は、少年たちにとって反逆のカリスマのように考えられたのだ。彼が子供たちの心に及ぼした影響力は思ったよりも大きく、その悪意は今も連綿も受け継がれていく。
一方、出所した彼に関しても様々な都市伝説が噂された。○○市にいた。○○駅前の風俗にお気に入りの子がいた。黒いマントをはおったサカキバラが、うちの町にやってきた…などである。
特に注目したいのは『黒いマントのサカキバラ』である。これは筆者のもとに寄せられた投稿メールによるものだが、バットマンばりの黒いマントをたなびかすサカキバラが、ある町(有名な場所なのであえて伏せる)で目撃されたというものだ。これなどは、都市伝説上でのサカキバラのダークヒーロー化が進行している象徴といえる。
衝撃的な事件が起きた時、その事件を下敷きに噂が一人歩きし、都市伝説が生まれる事がある。かつて、2・26事件の青年将校が、赤いマントをたなびかせ、帝都を制圧したことから、怪人・赤マントという都市伝説が生まれた。平成の日本で噂になった『黒マントのサカキバラ』もまた、同じ構造の都市伝説だったと言えるのだ。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)
画像 ©PIXABAY