妖怪・幽霊

【実話怪談】 逢いたくて?生霊

 あれは、3年前???いや、その娘からすれば4年前、ですか。私の友達が、高校3年の時の話なんですけどね。その娘、長く付き合ってた彼氏と別れちゃって。でもその娘は結構本気だったから、なかなか彼氏のことが諦められなくてね。
 あの時は楽しかったなぁ、逢いたいなぁ、電話したいなぁ……。そう、毎日彼との事を思い出していたんだって。

 そしたらある日、ケータイが鳴ったの。電話番号は、くだんの彼氏の携帯。『何で今になって、電話?』そう思って、その娘は電話に出たのね。
「もしもし?」
 受話器越しに、久々に聞く元カレさんの声は少し焦って、イライラしているようだった。
「何?」
 なんかおかしい。そう思って、そのコも訊くじゃない。まず、元カレさんから返ってきたのは、長い長いため息だった。




「……お前さぁ……」
 呆れた、ってカンジの口調だったって。
「俺たち、もう別れただろ?」
「……そう、だけど?」
「別れてくれって言ったのは悪かったと思ってる。でも……頼むから、もう俺に付きまとわないでくれよ」

 その声には、申し訳なさそうな雰囲気も混じってたんだって。

「……え?」
 彼女は元カレさんの言ってる意味がわかんなかったのね。だから普通に聞き返したの。
 そしたら。

「とぼけるなよ! 毎日毎日、俺の家に来てんのに!!」
「えぇ!?」

 その娘は、一瞬、元カレさんが何を言っているのか、よく判らなかったって。当然だよね。別れちゃってから一度も会ってないし、電話はもちろん、メールもしてないんだから。
 でも、元カレさんは、怒ったような口調で続けたの。

「忘れたのかよ! 毎日毎日、俺の家や行く所について来てるじゃねぇか!」

 元カレさんが言うにはね。その娘と別れてしばらくしてから、彼の近くに彼女が付いて回るようになったんだって。はじめは、学校の中でしょっちゅう彼女とすれ違うとか、廊下で彼女と目が合うとか、そんなだったんだって。

 あの娘を振っちゃったのは自分なんだから、その罪悪感でつい、彼女のことが気になっちゃうんだ……初めは、そう考えてたらしいのね。ところが、だんだん『彼女を目にする』ことが多くなっていった。
 学校の帰りや、休みの日。家族といる時や友達と遊んでる時。通学路やゲーセン、進学塾への行き帰り……。元カレさんが行くその先々に、彼女の姿があるんだって。そして、彼女はついに、元カレさんの家にまでやって来た。

 街灯の下や、家の向かいにある電柱の影。窓から家の外を見た、その視線の先に彼女がいる。そして昨日、彼氏が学校から家に帰ってくると。彼女が家の玄関の前で、ぽつんと立って待っていた……。

「嘘……」
「嘘じゃない! ケータイにだって、電話もしょっちゅうかけてきて……」

 彼女の電話番号で、何度も何度も携帯電話にコールがあったの。たいていは無言電話か、元カレさんが出ればすぐ切れるものなんだけど、それでもあんまり頻繁にかかってくると気持ち悪いじゃない。我慢できなくなってその娘からの電話番号を拒否ったんだけど、それでも家の電話にかかってきた……。

 そんな事が、彼女と別れてからずーっと。ほぼ毎日って言っていいほど、続いてたそうなのよ。いわゆるストーカー被害ってやつ。初めは元カレさんも、彼女を無視するようにしていたんだけれど、さすがにもう限界ってなって、彼女に電話したのね……。

 でもね。彼女には本当に心当たりが無かったの。何故なら、彼と別れてから、彼女の方も彼とは距離を置くようにしていたから。だって、目が合っちゃうと辛いから。声をかけられると、辛いから。彼が、視界に入っちゃうだけで辛いから。まだ彼のことが好きだから、切なくなっちゃうから……

 逢いたくっても我慢してたのね。

「私が、そんなことするはず無いじゃん」
「……マジで?」
「本当だよ! 私、あんたに電話はもちろん、会いに行ったりなんかしてないもん!」
「じゃあ、俺んちの前にいるのは何なんだよ!」

 キレ気味の元カレさんに、その娘は言ったの。

「ねえ…………ちょっと、静かに聞いてよ。私さ、今自分の家で、自分の部屋にいるんだけど。じゃあ、あんたの目の前にいる私は、ケータイで電話してる?」
「…………あっ」

 元カレさんの声は、そこで途切れたの。で、ただ一言、

「……ごめん」

 そう言って、電話は切れたのね。

 次の日、彼女と元カレさんは、久しぶりに学校で話したの。元カレさんが昨日、急に電話を切ったのは。今まで目の前にいた“彼女”が、ケータイを持ってない上に、彼と目があったと思ったその瞬間、そこからふっと消えたから。

「お前の言うことは、信じる。でも、だったらここ数日、俺に付きまとっていたのは何なんだ?」

 当然、その娘は答えられなかった。でも、心当たりがない訳じゃなかったのよ。




 ……『生霊』って、聞いたことあるよね?その娘は霊感が強くてね。元カレさんを想う気持ちが強いあまり、その娘の魂が分かれて、生き霊になっちゃったんだって。そのあと、元カレさんたちといろいろ相談して、お払いに行ったんだって。 ああ、もちろんその娘が霊能者さんの所に行ったよ。
 霊能者さんにお願いして、その娘の執着を元彼さんから祓ってもらった、って。その娘いわく、「霊感が強いからか知らないけど、こういった事はよくあるんだよね」って。

 私も半信半疑ではあるんだけどさ。だって私は霊感無いもん。でも元カレさん以外にも『この場にいるはずのない彼女』を見たって人もいるらしいから、あながち嘘とも言えないんだよね……。

(ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)