A氏がH県の山間の国道を車で走っていると道沿いに小さなサービスエリアが現れた。
10台ほどが駐車できるスペースとトイレがある。「ちょうどいい、休憩を取ろう」とA氏は車を停めた。
ふと見るとサービスエリアを覆う金網の外に大きな建物が隣接している。良く見ると道路沿いに建つ看板は壊れ、茶色くくすんでいる。建物の周囲も草が生い茂り二階の窓は全て割れている。
「廃墟だ!」心霊マニアのA氏は色めき立ち、車に同乗していたBとCがトイレに行っている隙に、隣の建物を観に行った。そこはK苑という結婚式場跡の廃墟で、心霊スポットとしては有名な場所だった。
彼は偶然見つけた巨大廃墟への興奮と畏怖の念を抱きながら外観と周辺を観察した。国道沿いに面した広い駐車場はコンクリを破った雑草が生い茂っているものの、まだ十分現役で使えそうだ。建物の入り口は大きく、全てのガラスが割れ落ちているため中が丸見えで、さあ入ってくれと言わんばかりに口を開けている。
彼が恐る恐る足を踏み入れると中は暗く、良く晴れた外とは別次元のように空気が冷たかった。目の前にはフロント、その横には二階へと続く大きな階段がある。階段下の奥の窓も割れ外に小さな庭園と池が見えている。左右には大型の冷蔵庫や客用の椅子、布団や衣服、オルガンなどが打ち捨てられていた。開いたままのエレベーターや地下を見つけ、怖がりながらも夢中になって散策していると、突然、A氏の携帯電話が鳴った。驚いて出てみると車に同乗していたBだった。
「お前そんな建物の中で何やってるの、黙っていなくなるから驚くじゃん」
はて、外から自分の姿が見えていたのかと思いつつも、心配させたことを詫びるとA氏は急いで地下から建物の外に出て車に戻った。
「行くなら行くって言えよ、まさかあの廃墟の中に入ったんじゃないかと思って見たら、二階うろうろしてるからびっくりしたよ」
BとCは、全ての窓ガラスが割れた二階の部屋をA氏が歩いているのを見たという。
A氏は戦慄した。その廃墟はサービスエリアからでは一階部分は死角になっており見えない。ここから中に居た自分が見えるわけがないのだ。そして彼は二階には上がっていない。
BとCが目撃したA氏と思しき人物は一体何者であったのか。それが実在の人間であってもなくても危険かつ恐ろしいことに違いはない。
心霊スポットというのはそういう場所である。
文:観雪しぐれ(怪談師)(ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)