ハロウィンの風習の原点・ケルト神話の異界

 紀元前12世紀頃から紀元前1世紀頃まで、ヨーロッパ全土を支配していたのがケルト民族である。

 地域や部族ごとに異なる文化を持っていたため、特にヨーロッパ大陸のケルト人は「陸のケルト」、アイルランド及びブリテン島のケルト人を「島のケルト」と区別されている。現在我々によく知られている、英雄や冒険、魔法や妖精の出てくるケルト神話は「島のケルト」のものである。




 ドルイド教による自然崇拝や輪廻転生の概念をベースに独自の文化を築き上げていたケルト民族だが、やがてキリスト教により淘汰されて12世紀頃には消滅したと考えられている。しかし、キリスト教も教えを浸透させるために彼らの文化を取り入れていった。その中でも代表的なものがハロウィンの風習である。こうして、民族としては消滅したものの、ケルトの文化は欧州の文化の各所に根付いていくこととなる。

 さて、ケルト神話には多くの異界が伝わっている。

 有名なものが英雄クー・フーリンの登場するアイルランドの「アルスター神話」に出てくる「影の国」だ。「影の国」はスカアハという名の勇猛な女神に統治されており、難所に囲まれた先に七つの城壁と九つの柵を備えた堅牢な居城に、二人の息子と一人の娘、弟子に当たる多くの戦士達と暮らしていたという。

 彼女は武芸や魔術の達人でもあり、難所を越えて影の国を訪れた若者には自らの持つ秘術や武器を授けられるとされていたため、教えを請うために影の国に挑む若者が後を絶たなかったという。中でも、すべての難所を自力で突破したクー・フーリンは特に彼女に気に入られ、戦いにおける全ての魔術と魔法の槍「ゲイ・ボルグ」を授けられたとされている。

 ケルト神話には異種族である妖精達が住まう世界に関する話も多く残っている。ケルト神話では神々が人間に破れ、力を失った後に妖精になったと考えられており、遠く離れた海の向こうや地下に彼らの住む「楽土」が存在するのだと考えられていた。代表的な楽土には以下の4箇所だ。地下にあるとも、水の中にあるともされる常若の国「ティル・ナ・ノグ」、水の下にあり、妖精だけでなく神々や英雄も住まうという「喜が原(マグ・メル)」、アイルランドの西岸から霧に包まれた姿が見えるとされた「至福の島(イ・ブラゼル)」、海神マナナンや妖精王ミディールによって統治されている「波の下の国(ティル・テルンギリ)」。他にも多くの名もなき妖精の国が民話や伝承の中に伝わっている。

 これらの妖精界は異次元の存在とも呼べるもので、人間が到達するのは容易ではない。しかし、夏至の日やハロウィンなどの特定の日には人間界と妖精界との境界が曖昧になるため、人間が迷い込むこともあるという。また、妖精に招かれたり、彼らの与えた試練を乗り越えることで妖精界に入ることもできる。奴隷として連れてこられたのでない限り、人間は客人として歓待されるが、妖精界は人間界と時間の流れが違うためほんの数日妖精界に滞在しただけのはずが人間界では数百年経っていた・・という浦島太郎のような状況に陥ってしまい、一歩戻った瞬間に老いさらばえる、体が塵のようにぼろぼろに崩れてしまうなどの話がある。




 有名な話が、騎士であり詩人のオシーンの伝説で、彼は美しい妖精の姫ニアヴと恋仲になり「常若の国」で3年間暮らすが、家族や友人等に挨拶しようと一度人間界へ帰ろうとする。このとき彼は「馬から降りず、地に足をつけてはいけない」と忠告されるのだが、うっかり落馬してしまった彼の姿は一瞬で老人に変わり、妖精界へ帰ることができなくなってしまう。彼が妖精界にいた3年間で、地上では300年の時が過ぎていたのだ。ちなみに彼の妖精界での体験や、彼の所属していた「フィアナ騎士団」についての詩を聖パトリックが聞き書きしたものが、ケルト神話のひとつ「フィアナ神話」にあたる。

 妖精界は美しく優雅な桃源郷であるが、人間には恐ろしい魔界であるとも言えるのだ。

 このような人間によく似た、しかし人間よりもはるかに英知を備えた存在に関する伝説が色濃く残っていたからこそ、異界から死者の霊と共に悪霊や魔物が顔を出すハロウィンという行事が身近なものとして捉えられ、現代まで伝えられてきたのかもしれない。

(黒松三太夫  ミステリーニュースステーションATLAS編集部 寄稿・ミステリーニュースステーションATLAS)

ハロウィン

 

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