筆者が中学生になって間もない頃の話。
当時は子供たちの間で「おまじない」や「こっくりさん」が流行しており、そのやり方や作法を指南した児童書なども流通するほどの盛り上がりだった。大抵は鳥居の絵の下に、はい・いいえ、ひらがななどが書かれた専用の用紙まで付いていた。
地方や世代により「エンジェルさん」「キューピッドさん」などの亜種も生まれ、思春期の少年少女たちの悩みのはけ口を担っていたように思う。
多分に漏れず多感だった筆者も、興味はあれど人に話せない胸の内を誰彼と共有出来るはずはなく遠巻きに見るだけで参加することはなかった。
そんなある日、クラスメイトのK君が声をかけてきた。昼休み二人で一緒にこっくりさんをやろうというのだ。
はて、特に親しくしているわけでもないのにと思うと同時に、K君が見せてきたオカルトちっくな本と付録のこっくりさんの用紙に魅せられ二つ返事で快諾した。昼休み、二人で人気の無い校舎裏へ行き校舎の壁に腰掛け用紙を開いた。10円玉を取り出したK君が、こっくりさんに何を訊こうかと言った。
近い距離でふとK君の顔を見ているとなんだか急に気恥ずかしくなった。彼は色白で目が大きくまつ毛の長い美少年だ。泣きぼくろも彼の艶っぽさを引き立てている。少女漫画のキャラのような容姿で女子からも人気があった。
筆者に男色の気はないが、なんだか照れ臭かったのは覚えている。そんな空気を変えようと筆者は「1999年7月に人類が滅亡するか訊こう!」と提案。二人はこっくりさんの儀式を始めた。
目を閉じて二人で10円玉に指を添えていると、わずかに10円玉が動くのを感じた。正直、K君が動かしているんだろうとぼんやり思っていると、突然10円玉に添えた手の甲に何者かの手が置かれた。冷たいが人の手の感触だとわかった。その手はギュッと筆者の手を握ってくる。
驚いて目を開けた。K君が何とも言えない表情で筆者をじっと見つめている。筆者は自分の手に視線を落とした。なんら異変はない。K君も始めた時のまま指を一本10円玉に添えているだけだ。
K君が筆者に特別な感情を持っていたのかどうかは不明だが、ここで終わればこの話はBL小説のプロローグで済んだ。
残念ながら本稿は実際の怪異体験である。
筆者の手に何者かの冷たい手が添えられた時、同時に右肩をぎゅっと掴まれる感触があった。確かにその場には筆者とK君しか居なかった。
しかし、きっとK君には見えていたのではないだろうか。筆者の右肩を掴むナニカの姿が・・・。
(おおぐろてん イラストレーター ミステリーニュースステーションATLAS編集部 寄稿)