「龍王峡での空白の3時間」

齢90YOROと申します。

以前にインタビューで神様の様な仙人の様な老人が夢に現れ、自分を恥ずかしくなり、心を入れ替えようと思った事をお話しました。それから数か月後、不良仲間と縁を切るまでの話です。

私はその後、一日三件のアルバイトを掛け持ちし始めたので仲間と会う時間が激減していました。そのうちに、もう学校を辞めて働き自分の店を持ちたいという気持ちが強くなり、少し一人になって将来の事をよく考えて見ようと思いました。

そして学校もバイトも休み、知人が支配人をしている鬼怒川のK水郭ホテルに行き、将来の事を考えることにしました。

支配人から色々な話をして頂き、自分の心も決まった翌朝です。午前10時に部屋を出てカウンターへ行くと龍王峡のパンフレットが目につきました。

暇を持て余していたので行ってみることに・・・

バスに乗り、それほど時間もかからずに到着しました。バスを降りると龍王峡の看板があり、遊歩道への案内が有ったので案内どうりに階段を川に向かって降りてゆきました。

真冬の龍王峡は人っ子一人いません・・・

橋を渡って反対側に行くと、北斜面だったのでしょう・・・1~2センチ程の雪が積もっています。一瞬、帰ろうかとも思ったのですが、ホテルに帰ってもやることがないしブーツを履いてるから大丈夫だと思い、先へ進むことにしたのです。

しかし、皮底のブーツはまともに歩けない程滑り、手すりにしがみつきながらズルズルと歩き始めました。

少し進むと後ろの方から「コロコロ」っと鈴の音が聞こえたので「ん?猫でもいるのかな?」と後ろを振り返りましたが、何もいません・・・・

雪の上に動物の足跡は点々と残っていますが何もおりません。

「あれ?気のせいかな?」と思い、また手すりにしがみつきながら歩き出しました。しかし、数歩進むとまた「コロコロ」っと鈴の音がします。

また振り返っても何もいない・・・

付かず離れず鈴の音が付いてきます。そこからは同じ事の繰り返しで”だるまさんがころんだ”状態でズルズルと手すりにしがみつきながら進み、ようやく対岸に渡る可愛らしい赤い太鼓橋がありました。

その太鼓橋には雪は無く、対岸の左手には小さな鳥居が見えました。

渡り切って鳥居の奥を覗き込むと、そこには小さな洞窟があり、その前に腰の高さくらいある大きな陶器の”お稲荷様”が鎮座していています。

そして、そのまわりを色々な大きさの”お稲荷様”が取り囲んでいました。

ふっと、上を見上げると縄が張られていて小さな鈴が沢山ぶら下がっていたのです・・・

私は先ほどの付いてくる鈴の音を思い出して、思わず「マジ?鈴だ・・・」とつぶやきました。私はチョット背中がゾクッとしたので”お稲荷様”に軽く会釈をすると、帰りの階段を一気に駆け上がりました。

道路に戻り帰りのバス停を探すと、一軒の食堂の前に停留場がありました。時刻表を見ると・・・なぜか時間が書いてないのです。

そもそも、私は時計など持っていなかったのですけど・・・

私が困っていると、後ろから「もうバスはないよ!」と声をかけられました。

振り返ると、食堂のお爺さんとお婆さんがニコニコ立っています。私は「え?もうないの?」と言うと「冬は早く終わっちゃうんだよ!」と教えてくれました。

私は、それにしても早すぎだろ?と思いながらも下り坂だし歩けない距離でもないので、歩いて帰ることにしました。

しかし、その前に強烈にお腹が空いている事に気が付き、店じまいをしているお爺さんに「もう終わりなの?」と聞いてみました。

お爺さんは「何か食べるかい?まだ良いよ」とニコニコと言ってくれたので店に入り席に付きました。

壁に張られたメニューを眺めると、メニューの横に時計があり、その時計の針が指しているのは3時15分・・・

私は、時計が進んでいると思い「おじちゃん!川魚定食ちょうだい!あとさ、この時計くるってるよ!」と言いました。

すると、お爺さんがノレンから顔を出して「イヤイヤ合ってるよ」と言うのです・・・

「えっ?そんなことないでしょ!3時になっちゃってるよ!」と言うと、お爺さんは「そうだよ、バスが3時で終わりだから」と言うのです・・・

私が龍王峡に着いたのは、おそらく11時前・・・・

遊歩道を歩いたのが、30分くらい・・・という事は、まだ12時前のはずなのですが・・・

しばらく指を折りながら考えてると、お婆さんがニジマスの乗ったお皿を運んできたので「まぁ、いっか!」と、どうでも良くなり箸をとりました。

そして、美味しいとは言えないニジマスをたいらげると龍王峡を後にしました。

しかし、どう考えても時間が会わないのですが、私は3時間何をしていたのでしょうか?謎です・・・

私は、鬼怒川で腹を決めて帰路に付きました。そして最寄りの駅の改札を出たとたん、待っていたかのように仲間のJが改札の前に立っていて声をかけてきました。

Jは「UとMが怒ってるから、YORO君早く顔出した方がいいよ!」とオロオロと言ってきました。

私は話が早くていいやと、Jに彼らの所に案内させ決着となりました。

いわゆる制裁です・・・縁を切りたかったUとMが殴りかかってきたのですが、例のごとくスローモーションになり暗がりだったので、彼らは私の手の平を殴っただけで殴った気になり、全くノーダメージで終了となりました・・・

高校なのですが・・・誰もが恐れる鬼の担任が泣きながら三時間も、説得してくれたおかげで無事に卒業できました。

以上で御座います。

(アトラスラジオ・リスナー投稿 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

Photo credit: kimagurenote on Visualhunt.com

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