千葉県勝浦市西端から鴨川市にかけての約4kmにわたり断崖が続いている。
旧国道がこの中腹にあり、古くは交通の難所であった。過去に多くの転落死亡事故があり、また投身自殺も多かった場所だ。
現在は新国道が出来ており旧道は立ち入り禁止。通行はできない。
勝浦市がこの断崖を「おせんころがし」という観光地とする上でのランドマークが西端の崖の上に建立された「孝女お仙の碑」。
過去にこの地を治めた豪族の悪政を戒めようと娘のお仙が崖から身を投げたという口伝を後世に残すためのものだという。
筆者はこの地に二度足を運び取材したが、いずれも不可思議な体験をしている。
「観光地おせんころがし」の入口から、お仙の碑までの細い一本道は舗装されているものの左右は山肌が広がり、木々に覆われている。夜には人工的な明かりは一切なく漆黒の闇である。
その木々の中を山の上からザザザーッ!と勢いよく何かが滑り落ちてくる音がしたかと思うと、ザザザーッ!と全く同じ速度で真っ直ぐに帰っていく音がするのだ。
この辺りにはキョンが生息しているとはいえ、およそ生き物の挙動とは思えない。また、誰もいないこの道の先でカメラのフラッシュのような閃光を複数人が目撃したり、女性の歌声や鈴の音、男の低い呻き声をその場にいたスタッフ全員が聞いたりしている。
筆者が決定的に恐怖を感じたのは夜半のロケの締めを「お仙の碑」の前でビデオ撮影していた時のこと。
山の向こうから断崖の旧道をまっすぐ進むように女性の悲鳴が、こちらに近づいて来たのだ。その様子を押さえた映像は昨年末に某局恒例の心霊特番で公開する予定だったが、筆者の急な事情で出演が不可能となり、筆者による解説が出来ないという理由で使用されることはなかった。
それはともかくとして、この女性の悲鳴に関して思うことがある。
おせんころがし殺人事件だ。
昭和27年に連続強姦殺人犯の栗田源蔵が、幼い子供たちを連れた若い妊婦を人気のないおせんころがしで襲った。
5歳と7歳の子供を崖から投げ落とすと妊婦を強姦し崖から投げ落とした。更に2歳の赤ん坊も放り投げて殺害するという凶悪な殺人事件だ。
そしてその事件現場というのは、おせんの碑が見つめる先、鴨川市の断崖である。
我々に向かって断崖に沿って暗がりから近づいてきた女性の悲鳴は、確かに鴨川市の方角から聞こえてきたものだった。
筆者にはそれが非業の死を遂げた被害者の無念の叫びに思えてならないのだ。
各地の心霊スポットを巡り取材していると様々な怪異に巡りあう。今後も鋭意リポートしていきたい。
※写真はイメージです
文・写真:観雪しぐれ(怪談師)(ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)