この妖精は、自分の子供を人間の子供と取り替えてしまうという。この妖精にすり替えられてしまった子供が「取り替え子(Changeling チェンジリング)」である。
ヨーロッパを中心とした、様々な地域で伝承が残っているが、主に「取り替え子」はフェアリー、エルフ、トロールが行うと考えられている。
妖精は病弱で醜い子供を出産する場合が多く、そうした子を産んだ妖精の親は、元気で容姿の良い人間の子供を見つけると取り替えてしまう。妖精によって連れ去られるのは、洗礼を終えていない、生まれたばかりの子供である。
すり替えられた直後は、取り替える前の人間の子供と非常によく似た容姿をしているが、成長するとともに「取り替え子」は陰鬱な表情をした病的な顔になるという。子供のいない妖精が人間の子供を連れ去る場合もあるが、その際には年老いた妖精が「取り替え子」として人間界に残される場合もある。
「取り替え子」を見破ったり、元の子供を取り戻すには様々な方法が伝承されている。
見かけによって判別する方法や、シャベルを十字架の形に組んで塩を乗せて焼く、薬草としても使われるジキタリスの葉でこする、という比較的害のないもの。妖精の丘で、「子供を返さなければ丘の植物を全て燃やすぞ!」と叫ぶという脅迫式のもの。また川に流すと元の子供が帰ってくる、火にくべると天からもとの子供が降りてくる、などの危険な方法もある。
取り返す方法のうち、火にくべるやり方が最も確実だと信じられた。火の中に入れて、燃えれば取り替え子で、本物の子供なら神の加護で燃えないのだという。
中世から近代のヨーロッパでは、こうした伝承を信じたり悪用した、痛ましい事件が起きた事が知られている。中世の頃には、ダウン症や自閉症などの親の願望にそぐわなかった子供が「取り替え子」だと判断され、悲しい最後を迎えることも多かったという。
18世紀のフランスでは、足の不自由な子供を繰り返し水に沈めて溺死させた母親が、「取り替え子」だったからやったのだと主張する事件や、26歳になる妻が肺炎になって弱ったため、夫の家族が「妖精に取り憑かれていた」として焼き殺してしまった事件が起きている。
日本にも歯が生えて生まれた子供や、奇妙の容姿の子供を「鬼子」と呼び、捨ててしまう風習があったり、アフリカのある部族にも非常に良く似た話があるなど、世界の様々な地域で同じような伝承がある。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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