妖怪・幽霊

【実話怪談】沈む…沈む…

 江戸末期の事である。古河藩(今の茨城県古河市)内に、近在でも評判の豪農がいた。

 ある時の事である。その豪農のいる村落を、不審な男達が彷徨っていた。

 (あやっ・・・ひょっとして押し込み泥棒であろうか?)身の危険を感じた豪農は妻子を家とは別の場所に逃がし、使用人とその夜、外の様子を見張っていた。

 「来たら捕まえてやる」

 すると先程の怪しい男達が入ってきた。一名は入口で張り込み、残りの一名が家の中に侵入してきたようだ。

 「それっ、縛り上げろ!」

 即座に主人と使用人で取り押さえると、古駕籠に押し込んで紐で絞めあげた。

 「どうだ、これで懲りたか」

 入口で張り込んでいた男は事態を察し、一目散に逃走した。

 夜が明けて豪農は使用人に命じた。

 「古駕籠をそのまま御所池の底に沈めてしまえ!」

 使用人に投げ捨てられた古駕籠は、泥棒を入れたまま池の底にどんどんと沈んでいった。

 その後、使用人は同家の女中と結婚した。しかし、その後奇妙な事が起こり始めたのである。

 使用人の男は、じゅんさい採りの際に死亡してしまうのだ。船を運ぶ竿を水底にとられ、まるで逆さまに水底にひきこまれていったそうである。そう・・・まさしくあの古駕籠を沈めた池であった。

 その後 使用人の女房も気が触れてしまった。「水が冷たい、息ができない、沈む、沈むよ~」とたびたび口走るようになった。亡くなった主人の事を言っているのであろうと言われたが、そのうちに自分で首を吊ってしまった。

 また豪農の家は既に息子の代になっていたが、ここでも奇怪な事が起こり始めていたのである。

 昼間の熱気が家の中にこもって、深夜になってもなかなか冷めない事が多かった。じっとり汗ばんだ空気が支配する屋敷。
 (ここには何かある)豪農の息子は得体の知れない恐怖に悩み続けた。

 また、ある夜、深夜に目を覚ました息子の目に奇妙な光景が映った。

 蚊帳がユラユラとゆれている。(おや、誰か熱くて窓を開けたのかな)息子はおもむろに起きあがり、窓をみたが・・・閉まっている。また毎晩のように、蚊帳の裾が濡れている。(こっ、これは一体?何者の祟りであろうか)




 息子は隣村の祈祷師に占ってもらった。すると祈祷師に強盗の霊が憑依し、こう訴えたのだ。

 「水だ!水だ!古駕籠に水が入ってくる。沈む、沈む。俺は何も盗ってない。そっ、それなのに、どうして・・・くそ~っ、七代祟ってやる」

 息子は、全てを悟った。この事により先代の主人である父親と使用人の罪を知り、強盗を厚く供養したという。

(山口敏太郎事務所 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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