「えっ?!…夫を解体?」
服が赤く染まっている。夫の返り血なのだろうか。
「いっいや~!」
男女4人全員が悲鳴をあげた。
「おい、あれってなんだ!!」
Yさんの彼氏が震える手で指さす先には、ぶよぶよした肉塊がある。
女はその肉塊を愛おしいようになでるとにた~っと笑った。口元にも若干の血が滲んでいる。
「ウアー」
彼女たちは後ろを省みず、そのままふもとまで逃げた。
あとで友人のYさんが、地元の知人に聞くと、夫と娘を事故で亡くし、精神を病んでしまった女性であるという。時々山に出ては登山客を脅かして迷惑行為をしているらしい。
「この町ではウワサの有名人だよ」
Yさんに、このトレッキングを紹介した知人は電話でそう説明した。
この話を聞き、Yさんは若干安心したが、Uさんの恐怖は拭えなかった。
「どうしたのよ。単なる不思議なおばさんよ、ただそれだけ」「いや、ちょっと気になることがあって」
あの時 Uさんは背中越しに女の奇妙な台詞を聞いていた。
「やっと帰ってきたのね。私の娘、○○ちゃん」
その媚びるような狂気の声は、今も耳にこびり付いている。
「あの人、多分私を娘だと勘違いしてる…」
それから、数ケ月後Uさんは恐ろしいものを目撃してしまう。
自分のマンションの最寄駅のロータリーで、巨大なビニールに大きな肉塊を入れて赤い汁を袋から垂らしながら、中年の女が通行人に聞き込みをしていたのだ。
「すいません、私の娘を捜してるんです。この駅の付近で見ませんか?」
中年女は間違いなく、北海道で遭った女であった。そして、勿論、探している娘とは自分の事なのだろう。
Uさんはその次の週、すぐさま引越した。
だが、背後にいつもあの女の気配を感じてしまい、未だに恐怖を払拭できないでいるという。
(山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)