予言の七言詩と絵を並べて作った不思議な書物「推背図」、同書は古くから中国に伝わる予言書である。
古代の王朝から、現在の中華人民共和国の成立までを予言していたとも、或いはソ連の崩壊、湾岸戦争や天安門事件さえも予言していたとも言われている。
この「推背図」の成立年については詳細は全く不明である。
同書の序文によると、唐の太宗皇帝の御世、袁天網と李淳風という二人の道士が、易学に基づき未来の出来事を上梓、皇帝に献上したと言われている。
この不思議な書名に関しては様々な説が唱えられている。
絵と漢詩の組み合わせが六十図になったとき、袁が李の背を推して、このあたりで良いと止めさせたため、「推背図」という書名になったとされているとか、ごく単純に予言を読ませ「背中を推す」ことにより、人を未来に進ませる意味だとか、或いは、ものごとの裏側(背中)から推し量り、未来の状況を把握するという意味であるとも言われている。
この予言書は歴代の中国国家も気にしてきた。
五代十国の時代には、「推背図」の予言に基づいて皇子の名前が決められていたり、元の時代に書かれた正史「宋史」にもその書名が見られるのである。
しかし、予言書故の不運か、度々政治的に利用され続け、現在では出版禁止にされている。
当然の事だが、中国のインテリ層は、推背図は偽書であると明確に認識しているのだが、その書が社会不安を引き起こす可能性があることから、禁止処分にしているのだ。
しかも、表現があまりにも曖昧で如何様にも解釈ができ、解釈の仕方によってはどんな歴史的事件を当てはめても適合してしまう可能性があり、ノストラダムスの諸世紀のように深読みの結果、予言書扱いされたともいえる。
新聞「大紀元」は中国共産党と犬猿の仲だが、『推背図』の第四十七象の図(ひとつの書棚を描いているだけの絵)から、2005年中に中国共産党が滅ぶと解読したが的中はしなかった。
但し、この「推背図」の予言は決して意味不明な出鱈目を並べたものではなく、易の理論に基づいて書かれた易の奥義書なのだ。
漢易は、合理的で複雑な理論から、個人の未来だけではなく全宇宙の事象を読み取ろうとした。数学・哲学・天文・暦法なども取り込み、漢易は人間や社会を読み取る総合的な学問になった。
また、最近解説が進んでいるのだが、この60種類の絵には易緯に見られる六十卦、十二月と十二辰が巧妙に配当されており、易学に長けた者にはその深遠さが理解できるというのだ。
易は確かに未来を読み取るものだが、易の奥義書と予言書を取り違えるのはいささか早計ではないだろうか。また、なんでもかんでも不必要に煽る無責任なオカルト雑誌があるのも問題ではあるが…。
どちらにせよ、難解であるが故に予言書とされた「推背図」は、易学の奥義書であり予言書ではない可能性が高く、予言論者よりも昨今では易学の関係者から注目を浴びているのだ。
また最近では、諸星大二郎の漫画「諸怪志異」に「推背図」をめぐる争奪戦が描かれており、一般的な知名度も増している。
このように、アジアにも予言書は古代から多く伝わっているのだ。
三国時代の諸葛亮(孔明)が著述したと言われる『馬前課』、北宋の頃は、邵雍の『梅花詩』が流行り、明朝では劉伯温の記した『焼餅歌』が予言書とされた。
韓国にも予言集『格庵遺録』があり、その内容が恐れられたと言われている。人はいつの時代も予言が好きなのだ。
(山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)