日本に古来より伝わっている妖怪たち。その殆どは昔話などに登場する伝説上の存在だが、中には出現した年月日や生物の特徴が非常に克明に記録されているものも存在している。それはまるで妖怪と言うよりも、未確認生物と遭遇した記録と言った方が良いものである。
本草学者、貝原益軒の記した「大和本草」や広川懈の「長崎見聞録」には長崎で目撃され、捕獲された人間に似た外見の奇妙な生物についての記述が存在している。
その生物は「海人」と呼ばれており、「大和本草」によれば海人は人間とほとんど変わらない姿をしており、頭には頭髪や顎鬚、眉も備えていたという。しかし人間との相違点も多く、海人の手足には指の間に水かきが存在し、奇妙な肉のひれのようなものが全身に備わっていたとされている。特に腰の部分の皮膚は折り重なって長く垂れ下がっており、まるで袴のようだったという。前述の「長崎見聞録」には、海人の姿がよく分かる図が掲載されている。
人間と似ていても意志疎通は不可能だったようで、捕獲された海人は人の言葉を話すこともなく、与えられた餌を口にすることもなかったそうだ。結局この海人は数日しか生きることができなかったとされているが、その理由が餓死によるものか、海とは環境の違う地上にあげられてしまったためかは分かっていない。
非常に詳細な記録が残されている海人については、アザラシなどの海棲哺乳類の飼育観察記録ではないかとする見方も存在するが、江戸時代の目撃記録を見てみると、現在のアザラシなどを指している事が容易に解る記述が多いため、やはり海人は別の生物だったのではないかとみられている。
この海人は今も棲息しているのだろうか。そして、我々の前に姿を現すことはあるのだろうか?
(加藤文規 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)