夏となれば、高校野球のシーズンである。
市川市に住む筆者の弟の口から聞いた話である。弟は現在、ある会社の役員をしているのだが、その事務所に来る某銀行の営業マンから聞いた話だ。
その営業マンは、元々高校球児で、野球の名門高校の出身であった。(有名高校なので名前は伏せさせて頂く)勿論、その人も現役時代は厳しい練習に明け暮れた野球少年であり、同僚にはプロ野球選手になったものもいた。
夏場などは学校に泊まり込みで野球の練習をするのだが、宿泊するのは古くさい宿舎であった。それもそのはずである。その宿舎は太平洋戦争当時の年代物で、兵隊たちが宿舎として使用したものらしい。
ある夜の事、夜間練習を終え、ふらふらになって宿舎に帰り、部員たちがくつろいでいると、奇妙な音が聞こえてきた。
「おい、みんな足音が聞こえないか」
仲間の発言に何名かが頷き、全員で耳をすました。
「ザック ザック ザック ザック」
集団で規則正しい行進である。まるで軍隊の足音、軍靴の響きである。外はさっきまで自分たちが練習していたグランドである。いったい、今だれがあそこで行進しているんだ。あまりの恐怖に誰もグランドに見に行く事はできなかった。
そういう奇妙な事が何度も続き、営業マンと仲間は思いきって先生たちに相談してみた。すると先生の答えは意外なものであった。
「ここは昔、軍隊の駐留地だったからね。いろいろ出るんだよ。先生の中にも”兵隊の幽霊”に出くわした人もいるんだ」
結局、彼の高校野現役時代は軍靴が鳴り止む事はなかった。
最近になって彼が母校を訪れたところその古い宿舎はなかったという。時代の波に戦争の残像は消えたのであろうか。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)