『夏の魂』

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これは現在五十代の三重県在住の男性・しげしさんの体験談である。

しげしさんは幼少期に両親から育児放棄され、祖母に面倒を見てもらっていたそうだ。そしてその祖母が亡くなったことをきっかけにして、不思議な能力に目覚めたという。

元々、しげしさんの先祖は庄屋をやっており、祖父母は広い畑を所有していた。だが、母の弟にあたる叔父が結婚した際、叔父の婚姻相手にあたる女性は田畑の手伝いを放棄した。祖父はそれに落胆したのか急死し、祖母も急激に衰えて行ったという。

祖母が倒れたのは、しげしさんが九歳の時だった。

「婆ちゃんが倒れた……!」

目の前で祖母が倒れ、しげしさんは動揺した。原因は脳卒中で、祖母は救急車で運ばれ、入院することとなった。

(僕には、婆ちゃんしかいないのに……)

小学生だったしげしさんは言い表せないほどの心細さを感じた。




しげしさんはそれまで毎日のように授業をさぼっては放課後まで立たされていたのだが、その日を機に真面目に授業を受けるようになったという。

(放課後、立たされてなんかいられない。婆ちゃんの面倒を、僕が見なくちゃ……)

しげしさんは授業が終わるとすぐに走って病院へと向かった。小学校から病院は歩いて10分ほどの距離にある。

「婆ちゃん!大丈夫?オムツ変えようね」

十歳のしげしさんがお婆ちゃんのオムツを変えたり脈をはかったりするのを見て、看護師は感嘆していたという。

(まだ死なないで……婆ちゃんがいなくなったら……一人になっちゃう……)

しかし、そのような入院生活も長くは続かなかった。ある日のことだ。

「しげし、……こっちへおいで」

祖母が途切れがちな声でしげしさんを呼んだ。

「何?婆ちゃん」

しげしさんがベッドの脇に近寄ると、祖母はこう続けた。

「しげし、あんたは大丈夫。何があっても私が守るから……」

そしてそのまま、祖母は息を引き取った。脳卒中が原因で、老齢だったこともあり、回復が出来ずになくなったのだ。


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父も母も頼れず、親族には辛く当たられる中、唯一の味方を失ったしげしさんは放心状態で家に戻った。祖母の遺体は家へと運ばれている。しげしさんは玄関を通り抜けると、冷たくなった祖母の手を握り、泣きながら眠りに落ちた。

しげしさんは、ずっと祖母の膝枕で寝ている夢を見ていたという。

そして次の瞬間、しげしさんは祖母の手を握っていたはずの手で、叔母のことを掴んでいた。

(えっ?)

事態が呑み込めずにいると、叔母がこう言った。

「はー、せいせいしたぁ」

そして叔母の手により、しげしさんの手が外される。

「ど、どういうこと……?」

しげしさんは一部記憶が抜け落ちたように、何をしていたか覚えていない時間があった。

「あんたね、急に白目向いて宙に浮いて、あたしに掴みかかったのよ!」

叔母は続ける。

「それであんた、“お前少しでもこの子に手をだしたら私は許さないから”って言ったの。婆ちゃんそっくりの声でね」
(どういうこと……?)

そして、その行動をとっていた間に聞こえていた、祖母の声を思い出した。

(そうだ……婆ちゃん、夢の中でも言ってた……。あんたは私が守るから、って)

祖母は残していく孫のことが気がかりだったのだろう。冷たく当たられないようにと、最後まで気にかけてくれていたのだ。

「おい、何騒いでるんだ!」

騒ぎを聞きつけた叔父がやって来て、叔母と軽い口論になった。そんな中、しげしさんは静かに祖母の遺体を見つめていた。すると、顔に白い布が被せられた祖母の口のあたりから、白くもやもやとしたものが現れたという。

(あれ……?)

口から抜け出たその白いもやはおそらく魂であったのだろう。しげしさんの周りをくるりと一周すると、天井をすり抜けて行ったそうだ。




それ以来、しげしさんは霊的なものを感じ取る力に目覚め、周囲の人間が持つ色を見分けられるようになったという。

しげしさんが実際に霊的なものに触れた体験に、こんな話がある。

祖母が亡くなって一年と経たぬ頃のことだ。学校で七不思議が流行り始め、そのうちひとつに「フシギちゃん」と呼ばれる女の子の話があった。

生徒が「ねえ」と声をかけられる。生徒は、流行していた口裂け女だと思って慌てて逃げるが、振り返るとそこには見たことのない女の子が立っており、こちらに手を振っているのだそうだ。実際にフシギちゃんと話したものはいなかったが、その子を見たという話は何人もが口にしていた。

十歳の夏、しげしさんは祖母の入院中にはけしてサボらなかった授業を、またサボりがちになり、毎日のように放課後まで立たされていた。

(今日はやけに暗くなるのが早いなあ……)

外に立たされたまま、空を見上げていると、ふいに声が掛かった。

「ねー、まだ帰らないの?」


画像©工藤隆蔵 写真素材足成

急に声をかけられてしげしさんは驚いた。声の方を見ると女の子が立っていて、なんだか古めかしい服を着ている。

「わたし、やづき。あなたの名前は?」
「しげしだよ」
「あ、そうそう、『しげしを帰らせなあかん』て、さっき先生がいってたわ。きっともう来るよ」

するとその言葉通り担任が現れた。

「しげし、もういいぞ。帰れー。明日はさぼるなよ」
(本当に言った通りになった……なんでそんなことまで知ってるんだ?)

当時、生徒は呼ばれない限り職員室に出入りすることは許されない空気があった。そのため、担任呟いていたことを何故この子が知っているのかと、しげしさんは不思議に思ったそうだ。

しげしさんがまじまじとやづきちゃんを見る。しげしさんは祖母が亡くなって以来、人間を見るとその背後にもやもやとしたオーラが見えるようになったが、その子の後ろにはオーラのようなものがなかった。そして、肌が透き通っていることに気が付いた。

(……ああ、この子か。最近学校でウワサになっている子は。やづき……夜月ちゃんかな)

しげしさんは漢字を教えてもらったわけではないが、ふとそう思ったという。

「ね。もう帰っていいって言ってたよ。ちょっとこっちに来て」

夜月ちゃんに片手を取られ、誘われるようにしてしげしさんは歩き出した。不思議と、恐ろしくはなかったという。

少しばかり歩いて行きついた先は、戦時中に使われていた防空壕だった。

(ここ、前に授業で来たことある……。戦争で使われた場所だ……)

防空壕の中はひんやりと冷たい。そして、数歩足を踏み入れたところで、しげしさんはやづきちゃんの最期の光景を見たという。

(あっ……)

戦時中のことだ。やづきちゃんは家族から疎まれており、別の家に預けられていた。だが、その家の子どもにも意地悪をされていた。そして戦火から逃れる最中に足をひっかけられ、そのまま倒れる家の下敷きになって亡くなったのだ。

(ああ、……この子は、僕と同じだ……)

祖母が亡くなって親戚を転々としていた自分とやづきちゃんの苦しみが重なり、悲しく、やりきれない思いがした。すると夜月ちゃんは静かにこう言った。

「……ここは、わたしのお気に入りの場所なの。来てくれて、ありがとう」

しげしさんの共感する心が伝わったのだろう。夜月ちゃんはそう言い残すと、すうっと消えてしまったそうだ。しげしさんはなぜか涙があふれ、とまらなかったという。

しげしさんは今でも、除霊が出来るわけではない。ただ、波長が合った相手が成仏するようなことがあるそうだ。

心優しい祖母が託してくれた力が、自分を通して、誰かの魂を救済する。そう思えた、心温まる体験だったという。

(志月かなで ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

 

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