大江健三郎氏の著作は社会的・政治的な問題を取り扱うものや、障害をもつ長男に寄り添うものなど重いテーマを追求する小説が多い。
そんな大江氏の著作でとある有名な都市伝説と密接に関係している?とされる作品がある。
皆さんも一度は「医学部の高額バイト」の話を耳にした事はあるだろう。医学生は皆解剖学の実習を行うが、その実習に使う献体は大学病院の中にあるホルマリンのプールに沈められる形で保管されている。それでも献体の腐敗が進行していくとプールから浮かび上がってくるため、長い棒で突いて再びプールに沈める。また、実習の前には献体を清める作業も行うという。
このバイトの時給は1~2万円と高額で、内容が内容だけに主に医学部の学生を中心に募集している事が多い。しかし作業内容、ホルマリンや死体からの強烈な臭いに絶えきれず、長続きする人はあまりいないとか……といった内容の都市伝説だ。
「死体洗いのバイト」とも呼ばれるこの都市伝説、ネタばらしをしてしまうと当然ながら存在しない。
解剖用遺体の取り扱いには厳しい制限が設けられているため、何も知らないバイトに扱わせる事は有り得ないという。また、ホルマリンについては揮発性が極めて高く、中毒の可能性があるためプールに沈めるといった方法はされず、解剖実習でもフェノールを振りかけるのが一般的とのこと(※ただし、かなり昔はプールに沈める形で遺体を保管していたという話もある)。
この話は都市伝説の中でもポピュラーなものの一つとして紹介される事が多く、ネットで調べると真相もセットで出てくるため現在では信じている人も少ないといえるだろう。
しかし、一昔前はこの都市伝説を信じて実際に大学病院に問い合わせる人もいたり、実際に問い合わせの電話を受けた事があるという人も存在していたようだ。
この「死体洗いのバイト」の都市伝説を大きく広めたのが、大江健三郎氏の短編小説「死者の奢り」ではないかといわれている。
都市伝説のとおり、主人公が高額な時給につられて解剖用死体を処理するアルバイトを始めるという内容で、作中では遺体の保管方法や登場人物の心情が巧みに描かれていた。
なお、大江健三郎氏の著作「死者の奢り」の初出は1957年。この時には既に「死体洗いのバイト」の噂は存在したそうなので、大江氏の著作にあった真に迫ったショッキングな描写が噂の信憑性を高め、さらに影響力を増して都市伝説へと変えていったのではないだろうか。

参考記事
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%BB%E4%BD%93%E6%B4%97%E3%81%84%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%82%A4%E3%83%88
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%BB%E8%80%85%E3%81%AE%E5%A5%A2%E3%82%8A
https://yonimokimyo.com/urbanlegend-social/783
https://gakumado.mynavi.jp/freshers/articles/12338
https://ascii.jp/elem/000/000/550/550685/3/
https://shownan.exblog.jp/11868908/
「解剖学教室の高額バイト」※アーカイブ
https://web.archive.org/web/20030801071755/http://www.med-legend.com/column/urbanleg.html#anatomy_myth
(山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)