都市伝説

女性の太ももを見て落下したエロ仙人・久米仙人の数奇な人生

 本誌ATLASでも山梨の仙人に関して以前紹介させて頂いた。仙人と言えば五穀を経ち霞を食べて雲に乗って飛行する超人のイメージがある。40代以下の世代には『ドラゴンボール』の亀仙人を想起するかもしれない。

 かくいう筆者の故郷・徳島県にある霊峰・剣山には仙人が今でも数人住んでいるそうで、お湯を突然熱くしたりぬるくしたり、目の前で様々な品物を消滅させたりする不思議な技を見せてくれたという。地元の古老の話によると最近、見かける仙人の人数が減ったらしく、数人あの世に昇天してしまったらしい。仙人の場合は普通の人間のように臨終するのではなく、戸解仙と言って、一瞬にして肉体の細胞を分解して帰天するのがセオリーであるとされてる。

 だが日本史上でも有名な仙人とは誰であろうか。筆者は迷わず久米仙人をあげたいと思う。久米寺の開祖と言われている伝説的な人物であるが、なかなか茶目っ気のある人柄で今でも人気のある好人物である。




 若いころの久米仙人は、天平年間に大和国吉野郡竜門寺に留まり、仲間と厳しい仙人修行に打ち込んでいた。獣のように山中を駆け抜け、滝に打たれ己を鍛えるなどの修行を行っていたのだ。当時、この寺で仙人の修行に励んでいたのは、久米と安曇という二人の青年であった。二人はよき友であり、よきライバルであったが、安曇の方が才能があったのであろうか。早々と飛行の術を会得し、久米を残し飛び去ってしまった。

 一人残された久米は一念発起し、遅れながらも飛行の術を会得し飛行仙となった。こうして各地を自在に飛び回った久米仙人が、吉野川(或いは久米川とも)の上空に差し掛かった時、とんでもない事態に遭遇する。

 見事に雲に乗って飛行中に、川べりで洗濯する若い女性の白いふくら脛に、つい目がいってしまい、神通力を失って雲から落下してしまったのだ。以来久米仙人は仙人修行を止めてしまい、普通の俗人となりその女性と夫婦になって暮らしたと言われている。




 幾ら山の修行でストイックな状態であったとしても、雲から落下するとは情けない。そういう人間臭い部分も久米仙人の魅力であろうか。現在、久米仙人は長寿や縁結びにご利益のある存在と言われており、その性欲は晩年まで旺盛で、186才になるまで久米仙人は女性と性交したとされている。

 この久米仙人に関する話は『扶桑略記』『七大寺巡礼私記』『久米寺流記』『元亨釈書』など多くの書物に見られるが、全く架空の人物ではなく、モデルになるような実在の人物が存在したのではないだろうか。

 なお久米寺の開基に関しては、聖徳太子の弟「来目皇子(くめおうじ)」が建立したという伝説も残されている。眼病を患った来目皇子がこの地で仏に願掛けをしたところ、見事に回復、その完治を祝って建立したのが同寺であるとも言われているのだ。果たして「久米」なのか?「来目」なのか?謎は深まるばかりだが、この寺に不思議な伝説があるのは間違いないようだ。

 久米寺があることから、久米仙人伝説の本場は、奈良県橿原市久米町とする認識が強いが、岡山県久米町(現在は津山市に編入)にも、久米仙人の伝説が残されている。久米仙人ゆかりの場所は各地に存在する。




 仙人を止めたあとの久米仙人にはこんな話が残されている。普通の人間として若い妻と一緒に暮らしていたたが、帝が新しく都を造ることに決定し、久米仙人も夫役につき材木を運搬していた。現場では他の人夫たちから、からかい半分で「仙人、仙人」という綽名で呼ばれていた。なかなか進行しない難工事に頭を悩ませた役人は久米に向かって「この木材を、山から人の力で運ぶのは困難である。仙術を使って山からここへ飛ばしてもらえないものだろうか」と言った。

 久米仙人は昼は普通の人間として生活していたが、夜には夫婦で座禅の修行を積んでいたので多少の自信があり、これを快諾した。久米仙人は7日間、断食し身を清めると仙人の再修業に取り組み、8日目の朝に奇跡を起した。俄かに生じた雲雲が天に満ち溢れ、雷雨が激しく降り注ぎ、一面の墨のような闇になった。ふと気がつくと元の晴れ間に戻っており、大量の木材が都の造営現場に積み重ねられていたという。

 この奇跡に大層感激した帝は、久米仙人の功をねぎらい免田30町を授けた。喜んだ久米仙人はそこに寺を建立し薬師如来を設置した。これが現在でも残る久米寺であるという。この後、久米仙人はどうなったのか定かではない。自分の像をつくり、己の歯と髪を入れたあと再び仙人となって飛び去り、残された妻が死亡した後、妻を蘇生させ再び二人で飛び去ったとも、久米寺で百年以上の長寿を全うしたとも、諸説唱えられている。。若き日の弘法大師は久米寺を訪問し、宝塔内で大日経を感得したという伝説も残されており、久米寺は「真言宗発祥の地」とも言われている。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)


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