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世界レベルに比肩する江戸時代の数学者「関孝和」 なぜ歴史から忘れられたのか

関孝和(せきたかかず)は、江戸時代前期の和算家、いわゆる数学者である。

和算と呼ばれる日本独自の数学を発展させた人物として知られ、そのレベルは洋算(西洋数学)に匹敵するほどであり、日本史上最高の数学者として「算聖」という異名で呼ばれることもある。一説に群馬県藤岡市の出身との理由から、上毛かるたの「わ」の札にて「和算の天才関孝和(せきこうわ)」と詠まれている。

関の生涯についてはほとんどが不明であり、多くの研究者の頭を悩ませている。ただ、幼い頃から大人の計算のミスを指摘するなど、早くから数理の才能が芽生えていたようである。

彼が本格的に数学へ没頭するきっかけとなったのは、当時の和算家である吉田光由の著書『塵劫記』(1627)を読んだことによるという。この書物は、中国の『算法統宗』(1592)をもとに編纂された数学書であり、戦国の世が終わり失職した武士によって算盤塾で生計を立てる者が多く現れたこの時期には、算盤の入門書としてよく読まれていた。

関は特定の師匠につくことをせず、ひたすら書物によって数学の知識を吸収していった。特に影響を受けたのは、13世紀の中国の数学書であった『算学啓蒙』と『楊輝算法』であり、中でも前者の『算学啓蒙』は、算木や算盤といった計算道具を使用する中国発祥の代数学である「天元術」を熟読し、一から学んで完全にマスターしたと言われている。その理解力は、後者の『楊輝算法』を書写する際に乱丁を訂正することができたほどだった。

関が残した業績はいくつもある。

先に登場した天元術は、未知の数が複数ある場合には効果を発揮することができなかった。関はこの天元術を独自に改良し、計算道具の使用をせずとも代数計算を行なうことのできる「点鼠術」(てんざんじゅつ)と呼ばれる筆算方法を編み出した。

未知数を記号によって表すこの手法は、16世紀にフランソワ・ビエトより始まり多くの人々の手で改革されたものであったが、それを関はたった一人で行なったことになる。

特に有名なのは、円周率の割り出しだ。円周率といえば、3.141592…と小数点以下無限に続く数である。オイラーやラマニジャンなど、これまで多くの数学者たちが円周率の近似値を導き出す計算式を求めているが、関孝和もその一人であった。

円周率の求め方はいくつもあるが、最もスタンダードな方法として、円の中に正N角形を作った時に、その周辺の長さを直系の長さで割ると円周率を割り出すことができる。

このNの数を徐々に大きくしていくことで限りなく円に近付けることが可能となり、それに伴ってより正確な円周率が求められるという寸法だ。関孝和は、当時3.16が常識とされていた円周率に疑問を持ち、なんと正131,072角形を用いて計算し、11桁の近似値の算出に成功している。

彼はこの他にも、ニュートンやライプニッツといった名だたる数学者が辿り着いた微分法についても、ほぼ同じ時期に同様の着想を得ており、また「和の公式の親玉」とも呼ばれる、ある特定の自然数m乗の和の公式が求められるという「ベルヌーイ数」を、名前の由来にもなったスイスの数学者ヤコブ・ベルヌーイより早く著書に記している。

こうした数々の業績を持つにもかかわらず、こんにち関孝和の名はその業績と共に、世間で広く知られているとは到底言えない。

その理由は、彼の時代には自然科学が日本で成立しておらず、西洋で数学が自然科学と結びついて発展していったという流れを組むことができなかったことや、この時代の数学は和歌のようないわば娯楽の一種とみなされており、流派の師匠につくことでそれを伝授されるというような体制であったことなどが原因として上げられている。

結果として、明治となって西洋算術が普及する中で、現代で言うパズルの解法術のような存在であった和算は表舞台から退けられたような形になってしまった。

晩年の彼は、暦を研究する暦学に着手する中で、その改暦のチャンスを渋川春海によって奪われ、失意のうちに亡くなったという。渋川は初の国産となる「貞享暦」を作り上げた暦学者であったが、一説にはその精度は関に劣っていたとも言われている。

【参考記事・文献】
https://sansu-seijin.jp/blog/archives/3219
https://dic.nicovideo.jp/a/%E9%96%A2%E5%AD%9D%E5%92%8C
https://otonanokagaku.net/issue/edo/vol3/index.html
https://gamethankyou.com/science/math/seki-takakazu/#i-3
https://bushoojapan.com/jphistory/edo/2024/10/23/8027

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【文 ZENMAI】

画像 ウィキペディアより引用