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技術社会の破壊を目論んだ天才数学者、全米が恐れた爆弾魔「ユナボマー」

2023年6月10日、アメリカ西部コロラド州の刑務所に収容されていたある受刑者が死亡した。その人物とは、1978年から95年にかけて全米各地に小包爆弾を送り続けたセオドア・カジンスキーという、通称「ユナボマー」と呼ばれ恐れられた爆弾魔であった。

彼は、1942年にイリノイ州シカゴで生まれた。幼少期からずば抜けた頭脳を持っており、15歳には飛び級で高校を卒業し、16歳でハーバード大学に進学、その後ミシガン大学大学院を経て、25歳の頃にカリフォルニア大学バークレー校で開学以来史上最年少の助教授となり、数学者として勤めていた。

IQ167という驚異的なスコアを叩き出した天才であったと言われる彼であるが、ある時に突然大学を辞めてしまう。はじめは両親のもとで暮らしていた彼であるが、のちにモンタナ州リンカーン郡の郊外に小屋を建てて、電気も水道も無い、きわめて原始的な生活を始めた。

彼は、獲物の追い方や食すことのできる植物の見分け方、火の起こし方といった技術を自ら身につけていき、誰からも独立した自給自足の生活を目標としていた。

だが、彼の暮らす小屋の近辺はますます工業化などによって自然が破壊されていき、自然に囲まれて生活することはもはや不可能だと考えた彼は、産業技術に支えられる社会体制を打ち破るには「破壊」しかないとさとった。

現代技術の進展を食い止めることを目的とした彼は自作の爆弾を作り、自分の住む小屋を拠点として全米各地、主に各地の大学や航空会社の関係者を標的に小包爆弾を発送、時には自ら届け次々に爆破事件を起こしていった。自作の爆弾は徐々に洗練されていき、爆発を免れたものの中には、飛行機をまるまる消し飛ばせるほどの威力を持つものもあったという。




FBIが捜査に乗り出すも、爆弾に偽の手がかりを残すなどの工作を施し攪乱(かくらん)させた。およそ16件にも及ぶ犯行の中で、計3人が死亡、23人が負傷している。なお、彼の通称となっている「ユナボマー」とは、FBIによる大学・航空機爆弾犯「University and Airline Bomber」を略したUNABOM(ユナボム)がメディアを通じて「ユナボマー」と呼ばれたことに由来する。

18年に渡る爆弾テロで全米が恐怖におののいていたさなかの1995年、彼はニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙に対し、科学や機械文明を否定する”論文”を送った。この論文を掲載すればテロ活動をやめる旨が添えられ、果たして論文『産業社会とその未来』は新聞に掲載された。

しかし、この送った論文が彼の逮捕のきっかけとなった。弟のデイヴィッドが、その文体の特徴から兄のものであることに気付き通報された。FBI史上最も長い逃亡期間を記録した爆弾魔ユナボマーがついに逮捕されたのだ。

1998年には、仮釈放なしの終身刑が言い渡されることとなり、その後ある日の朝に刑務所内で呼びかけに反応しない状態で発見され死亡が確認された。一部メディアでは、自殺との見方を伝えた。

彼は司法取引内容をそのまま認めたために、公判が一度も行なわれることがなかった。そのため、彼の犯行動機をはじめ、大学や航空会社といった標的を選んだ明確な理由もわかっておらず、現在も多くの謎を残したままこの事件は幕を閉じることとなった。

【参考記事・文献】
「ユナボマー」受刑者が死亡 米各地に小包爆弾送りつけ終身刑
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230611/k10014096301000.html
「ユナボマー」受刑者死亡 自殺か、米連続小包爆弾事件
https://news.yahoo.co.jp/articles/f07f5d72c9f1e5d8f21964a25cfb7fb5381d7e6c
【ユナボマー】FBIが追い続けた連続爆弾魔!IQ167ってどれくらいすごい?
https://kasumisoublog.com/whoisunabom/

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(黒蠍けいすけ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 Federal Bureau of Investigation – Original: Federal Bureau of Investigation, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=123275560による