スピリチュアル

「ノーベル平和賞」

40代男性Aさんから聞いた話。

Aさんが中学生だった時の話。男子中学生なのでA君と書く。その当時、とても良い香りの女の先生がいた。年齢は40前後?いつもカーディガンにスカートみたいな、地味な先生だった。顔も名前もはっきり思い出せない。髪は長かったと思う。

中学生のA君にとって、40がらみの地味な女教師など憧れの対象としては論外だったが、その先生の香りはA君にとってもとても心地よ鋳物だった。その香りに包まれたい一心で、A君はわかっているのにその先生に質問に行ったり、どうでもいいことを報告をしに行ったりしていた。

その香りは爽やかとか、美味しそうとか、そういう心地よさとはちょっと違い、もっとうっとりと、平和な気持ちになるのだった。抑えられない怒りに苦しい時も、先生の側によって香りが漂ってくると、変な表現だが、心がニコニコしてくるのだ。

しかし官能的とか、骨抜きになるようなものとは違う、どこか理性の一点が冴える香りでもあり、A君は先生の香りに包まれ至福のときを過ごしていてもそれを顔に出さないよう抑制していた。

当時のA君は、ノーベル平和賞というのがあるらしいが、自分ならこの香りがそれだな、と思ったという。

くじけそうなとき、苛立って暴力的な行為に突き動かされそうなとき、先生の姿を見るとA君はそばに行って、香りの中に身を置いた。やすらいで、気持ちがリセットされている。

当時A君の家庭は荒れていた。しかし大人の事情だったので、A君は振り回されるだけだった。しかしなんとか絶望もせず、家庭に吹き荒れる嵐の中を持ちこたえられたのは、先生のおかげ、正確に言うと、先生の香りのおかげだったと言ってもまったく過言ではないのだった。

それほど現実離れした香り、あえて言えば人に平和とエネルギーを与えるような不思議な香り出会ったのに、当時の誰も話題にしなかった。当時はなにごとにも控えめだったA君は、自分からその先生がいい匂いだ、という話題を振って、他の生徒の思いを確かめるということができないまま卒業し、それ以来ずっとその事実は自分の心の中にしまったままだった。

A君は高校卒業後地元を離れ、辛い思い出にまみれた中学時代を思い出させる当時の知人との交流はほとのどなくなっていた。

しかし、40を過ぎたA君は改めて不思議に思っている。あれほど良い香りだったら、自分以外のだれかも話題にして当然だったはずだ。それほどA君にとっては夢のような香りだった。

あの香りは自分だけが感じ取れるものだったのだろうか?それとも、すさんだ家庭を忘れたい自分が生み出した幻だったのだろうか? 

また、先生も、自分に優しく声をかけてきたこともない。自分がそばに立っているのに対してもなにも反応らしい反応はしなかった。さらに思うのは、その先生が本当に居たのかどうかだ。自分が苦しい時になると現れて、良い香りを漂わせる先生。

A君は現在家庭を築きそれなりに満足に暮らしている。当時の家族は離散状態にあり、地元に帰る気は無いが、もしも当時の知り合いに会う機会があったら、あの先生について、尋ねてみたいと思っている。いや、絶対聞いたりはしないだろう。

(アトラスラジオ・リスナー投稿 タマリンさん ミステリーニュースステーションATLAS編集部)