2016年3月29日に最終回を迎えた深夜アニメ『おそ松さん』。
若い女性を中心に絶大な人気を集め、最終回の視聴率は深夜アニメとしては、記録的な3.0%という数字を叩き出した。
『おそ松さん』は、漫画家の故・赤塚不二夫氏の『おそ松くん』を原案としたリメイクアニメで六つ子やイヤミ、チビ太、デカパンといった懐かしのキャラクターが成長した姿が描かれた。原作となる『おそ松くん』は1962年に週刊少年サンデーで連載開始と50年以上前の漫画にも関わらず現代に耐えうるコンテンツとしてリメイクできることを示したことも話題となった。
大幅にリメイクされているとは言っても、六つ子の姿や名前などは変わらず、オールドファンも楽しめるような内容になっていたことも勝因の一つだろう。
さて、六つ子の名前であるが、それぞれ古くからある日本語のダジャレで作らていることはご存知だろうか?
おそ松は最終回のタイトルにもなった「お粗末さまでした」という挨拶が由来である。
今ではあまり聞くことのない言葉だが『おそ松くん』が連載された昭和30年代は食事を食べた人が「ごちそうさまでした」と挨拶した後、食事を作った人が「お粗末さまでした」と返すやりとりが日常的に行われていた。『おそ松くん』連載当時は非常にポピュラーな言葉だったのだ。
カラ松は「落葉松(カラマツ)」という実在する松が名前のモデルである。盆栽やバルブ原木などにも広く利用されているため、名前は知らなくてもお馴染みの松といえる。
トド松も同じく松の名前で漢字すると「椴松」となる。落葉松ほど一般性はないが、縁起物の松の飾り物には広く使われている。
一松は「市松模様」、「一抹の不安」など、今でもよく使う言葉がありお馴染みだが、赤塚不二夫によるとモデルとなったのは、「市松模様」のほうだという。
十四松は、現在も家庭で広く飼われている小鳥「十姉妹(ジュウシマツ)」がモデル。原作およびアニメではピーチクパーチクうるさい兄弟として表現されているため元ネタが非常にわかりやすい。
さて、ここで問題なのが次男である「チョロ松」である。上記の兄弟は調べればすぐに元ネタは判明するが、チョロ松のみ当てはまる日本語がない。一時期は赤塚不二夫の創作した言葉ではないか、とも言われていたが、実はコレ一種の業界用語なのである。
お祭りなどで露天商を営む売り子のことをテキ屋や香具師(やし)と呼ぶのだが、赤塚不二夫の自伝『シェーの自叙伝』(1966年)によると関西地方のテキ屋業界では、荒っぽい男たちがうるさい子供を「おい!そこのチョロ松!」と呼んでいた時代があったのだという。この呼び方は、赤塚不二夫が子供のころ(1940年代)まではテキ屋業界で使われていたらしいが、『おそ松くん』が連載されていた50年前にはすでに死語と化していたため、長らく元ネタが不明と扱われることも多かったのだ。
『おそ松さん』では元ネタに忠実(?)に再現されたのか、弁の立つツッコミ役の少々口うるさい兄弟として登場していた。チョロ松は実に70年ぶりに本来の意味で登場したおそ松兄弟なのである。
文:穂積昭雪(昭和文化ライター)