アレクサンダー大王(アレクサンドロス3世)といえば、古代ギリシアに生まれ、20歳でマケドニア王に即位し、のちに東はインダス川、南はエジプトにまで領土を拡大し一大帝國を築き上げた人物である。32歳という若さで亡くなったものの、逸話や後世への影響力は多く、偉大な英雄とも称されている。
紀元前334年の東方遠征をはじめとして、いくつもの戦いを繰り広げていたアレクサンダー大王は、生涯に渡り無敗であったと言われている。
例えば、かつて彼が父親フィリッポス2世から学んだ戦法を発展させた「斜線陣」は、自分の主力部隊や騎兵を陣形の左側に集中的に配置し、相手の弱点である右側を攻めるという戦法である。当時は右手に槍、左側に盾を持つスタイルであったことに由来しているという。
また、重装歩兵が敵を惹きつける間に敵の側面・背後から騎馬隊を突撃させるという「鉄床戦術」も頻繁に使用され、またマケドニア軍の騎馬軍の槍も通常より長く、隊列も逆三角形に形成したことで高い攻撃力を発揮することができたと言われている。
アレクサンダー大王率いるマケドニア軍は、知将たる彼の戦術もそうであるが、兵士自体も充分な訓練を受けてきた先鋭たちであり、このことが圧倒的な兵力差にも拘らずペルシア軍を破ることが出来たことに繋がっている。また、全く同じ戦法を繰り返すのではなく、相手に応じて柔軟に戦術を変えていたという点も、彼の無敗伝説を築き上げる大きな下地となっていった。
このように、アレクサンダー大王の支配拡大において戦術面は大きく注目されるポイントとなっている。では一方で、それほどに拡大した大帝国の統治運用についてはどうだったのだろうか。
たとえば、当時は支配地域に対しては元からいた領主を殺し、自国から新たな領主を就かせるという方法が一般的であった。しかし、アレクサンダー大王は降伏した領主を殺すことなく、そのまま統治を行なわせるようにしたのだ。これは、住民たちから大きな反発が起こることを防ぎつつ領土をまとめ上げる方法として画期的ともいえる戦略であった。
また、攻撃された街でも、補給や交易の重要な地点となる街は破壊されずに残され、のちに水路や交通路などのインフラ整備によって大きく発展していくことにもなったという。
象徴的なのは、ペルシア征服などで見られた融和政策である。現在においても、征服した地域に対しては為政者が圧政を強いるということはよくあるが、ペルシアを征服したアレクサンダー大王が行なったのは、ペルシアの風習を取り入れることであった。自らがペルシア風の服を着用するほど積極的にペルシアの風習を取り入れ、部下たちにはペルシャ風の服を強制して着させていたほどであり、従わない者に対しては処罰するほどであったという。
さらに、融和政策の一環として行なわれたのが合同結婚式と呼ばれるものであった。紀元前324年には、スーサでマケドニア貴族や兵士の男性たちと、ペルシア人女性たちとの合同結婚式が行われ、なんとアレクサンダー大王自らもペルシア王国最後の王ダイオレス3世の娘と結婚した。文化慣習のみならず、混血も図るという非常に大胆な政策であるが、こうした異国の文化や習慣を取り入れるという姿勢も、フィリッポス2世からの教えに基づくものであったと言われている。
しかしながら、こうした統治運用がうまく機能していたのかについては、少々疑わざるを得ない。
ペルシア風の服の着用を強いられていた部下たちの多くは、実際のところ不満を強く抱いていたようである。このことは、たとえリーダーが優秀であり尊敬できるような存在であるとは言え、自分たちが守ってきた習慣は強制によってそう簡単に変えられるようなものではないという、あまりに人間的な心理が見て取れる。
また、合同結婚式についても実のところ、そこで結婚した多くの者たちは離婚をしてしまっているという。この頃、すでにアレクサンダー大王もすでに亡くなっていたことから、多くの人々が急速な融和を受け入れていなかったという実情が垣間見れる。
彼の融和政策は、古代ギリシャとオリエント文化の融合によって生み出されたヘレニズム文化に代表されるように、後世に影響与える貴重な文化を誕生させたことは疑いない事実である。だが反面、こうした急激な融和政策に対する内心の反発こそ、彼がそれ以上の支配拡大をなし得なかったことに繋がっているのではないのだろうか。
【参考記事・文献】
アレクサンダー大王、併合政策に失敗も価値観を残す
https://globis.jp/article/1441/
アレクサンドロス大王をわかりやすく解説!東方遠征で拡大した領土と強さの秘密
https://worldclub.jp/turkish/alexander-the-great/#i-4
若くして大帝国を築き上げた「アレクサンドロス大王」の生涯をわかりやすく解説
https://rinto.life/114343
【アトラスラジオ関連動画】
ATLASラジオ2nd 167 オーストラリアのアボリジニの古代文明、ストーンヘンジのエジプト文明
【文 黒蠍けいすけ】
画像 ウィキペディアより引用