うわんは、江戸時代の妖怪画などに描かれていた妖怪である。
佐脇嵩之の『百怪図巻』(1737)には、鉄漿(おはぐろ)を付けて両手を振り上げ襲い掛かるような姿で描かれており、鳥山石燕の『画図百鬼夜行』(1776)では、同様の姿で廃屋の塀上から飛び出してくるかのような描写で描かれている。だが、両者の妖怪画には妖怪についての説明文が付けられていないため、これだけではいかなる妖怪であるかはわからない。
東北各地に伝わる163の怪談を集めたという小説家の山田野理夫の著書『東北怪談の旅』(1974)では、青森県の怪談として「うわん」という怪異が紹介されている。それによると、ある夫婦が古い屋敷を買って引っ越したが、夜になると「うわん」という大声が朝まで続いて一睡もできずにいた。
近所の人々の間では、眠れない原因を夫婦の情事のせいだと良からぬ噂が流れ始めてしまっていたが、ある老人によってその古い屋敷に「うわん」という怪物が住み着いていることが知らされたという。
また、佐藤有文の『いちばんくわしい日本妖怪図鑑』(1972)や粕三平の『お化け図絵』(1973)には、古びた寺の近くに現れて人が通りかかると「うわん」と奇声を発して驚かせ、言われた方も「うわん」と言い返さないと命を奪い取ってしまうとの解説されている。
だが、これらの解説は一時出典が無いため、いずれも妖怪画の描写から連想された著者による創作ではないかとの見解が有力となっている。また一説には、熊本県阿蘇郡や鹿児島県鹿児島市では化物・怪物のたぐいを「ワンワン」「ワン」と呼称していたことから、それに通じる系統の妖怪ではないかとの推察もなされているという。
ゲームや特撮作品では、うわんをモチーフとしたキャラクターがいくつも散見され、例えば平成仮面ライダーの第6作『仮面ライダー響鬼』では、「ウワン」というセミの魔物が登場しており、奇声を発して驚かせるも正体がわからないのは(幼虫の頃)地面に潜っていたからであるとの設定がなされている。
こうしたもののほか、うわんの描写では指が3本で描かれており、これが鬼の特徴を意味しているとの見解から鬼の一種との見方もなされている。これについては、自然現象である何らかの異音の正体を妖怪や化物といった形あるもので表すために施された事情によるものとも考えられるだろう。
特徴的なのは、鉄漿を施しているという点だろう。一説には、これは鉄漿ではなく汚れて変色した歯を表しているとの解釈もあるという。そのように捉えると、道行く人に物を乞う浮浪者などを妖怪に見立てた姿であったとも考えられるかもしれない。いずれにせよ、奇声を発して驚かせるというなんとも奇妙な妖怪である。
【参考記事・文献】
うわん
https://youkaiwikizukan.hatenablog.com/entry/2013/02/02/%E3%81%86%E3%82%8F%E3%82%93
うわん
https://dic.pixiv.net/a/%E3%81%86%E3%82%8F%E3%82%93
021 #うわん
https://youkaigakamasuda.hatenablog.com/entry/2020/04/19/110151
【文 ZENMAI】
画像 ウィキペディアより引用