沢田研二と言えば、1967年にザ・タイガースのボーカルとしてデビュー、ロックバンドPYGを経てソロで活躍する歌手である。
女優ジュリー・アンドリュースのファンであることから、通称「ジュリー」と呼ばれ親しまれるようになり、かつては奇抜な衣装や化粧によるビジュアルで一世を風靡したスターである。俳優としても活躍し、また『8時だョ!全員集合』などでは志村けんの弟分のようなポジションでのコントも人気を博した。
還暦を過ぎてなお現在も精力的にコンサートを行なっている彼であるが、2018年に起こったドタキャン騒動は記憶に新しい。10月17日のこと、さいたまスーパーアリーナで彼のコンサートが行なわれるはずだったのだが、開演1時間前という直前になって注意が呼びかけられ騒動となった。
理由は、イベンターから観客数9,000人と聞かせられていたにも関わらず、実際には7,000人だったことに対して不服であったことに由来していたという。「プロとしての意地」ということでの釈明は賛否両論となったが、その後はリベンジライブを無事開催することにもなったという。
因みに、彼がコンサートをドタキャンしたという事態は、実はそれ以前の2004年にも発生している。詳しい理由は明らかになっていないが、チケットの売れ行きが良くなかったことが原因ではないかと言われている。
2度もコンサートのドタキャンという事態を引き起こした沢田研二であるが、このことについてはある因縁めいたものがある。それは、1979年に公開された長谷川和彦監督のアクション映画『太陽を盗んだ男』(1979)だ。
「一般人が原爆を作り政府を恐喝する」というあまりにも危険な内容の映画となっている本作は、沢田研二が主演を務め、さまざまな後進のクリエイターなどに影響を与えたカルト的人気を誇る作品である。
本格的なパトカーのカーチェイスが繰り広げられるほか、皇居前や国会議事堂周辺でゲリラ撮影を決行し、あらかじめスタッフに「逮捕され係」が用意されていたというほど無謀とも言える製作が行なわれ、本編の中で沢田研二は、腹に原爆を抱えて妊婦に女装し国会議事堂に潜入するという、完全な「隠し撮り」による撮影も決行された。
そのほか、多大な伝説を築いた本作であるが、その中に沢田扮する主人公が政府に対して放ったいくつかの要求がある。一つは、巨人・大洋の試合終了までナイター中継をさせるものであり、もう一つは、「ローリング・ストーンズの日本公演」であった。
イギリス発の世界的人気ロックバンドであるローリング・ストーンズは、1973年に実際に日本公演を行なう予定であった。ところが、メンバーの麻薬使用や、ビートルズ来日の際の混乱が再発することを恐れた政府によって入国が却下されてしまい、チケットが完売したにもかかわらず中止となった。本編におけるローリング・ストーンズ日本公演は、この実際の出来事を投影させたものとなっている。
コンサート開催が決定していたにも関わらずキャンセルになってしまったというこの事例、どことなく沢田研二のドタキャンに重なる部分もある。だが、政府によって決定されたキャンセルに反抗する形の要求をしたかつての役柄から、自身がいわばキャンセルした政府側になってしまっているというのも皮肉である。
【参考記事・文献】
沢田研二、ドタキャン理由…9000人のはずが7000人「僕にも意地がある」
https://hochi.news/articles/20181018-OHT1T50270.html?page=1
沢田研二は14年前にも…公演ドタキャンの真相は客の不入り?
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/239790
太陽を盗んだ男(映画)
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/4595.html#footnote_body_2
【文 ZENMAI】
画像『太陽を盗んだ男 [DVD]』