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「三蔵法師は女性」等など、日本独自の『西遊記』設定

「西遊記」といえば、中国明代に成立した小説であり、観世音菩薩の命を受けた唐の高僧三蔵法師(玄奘)が、孫悟空、猪八戒、沙悟浄をお供に引き連れ、妖怪悪鬼を退治しながら天竺へ旅する作品である。

日本においては非常にポピュラーな作品の一つとなっており、本作をモチーフとする作品が多々生まれ、また幾度となくテレビドラマ化もされている。

ドラマ作品として特に有名なのは、1978年に放送されていた『西遊記』だろう。

NHK大河ドラマの裏番組として放送されていながら高視聴率を記録し、イギリスやオーストラリアなどでも放送され人気となった作品であった。また、放送された年は日中平和友好条約が調印された年でもあり、中国にてロケーション撮影も敢行された。

これ以前から、「西遊記」はミュージカル映画、人形劇、アニメ映画など多くの媒体で製作されていたが、本作がのちの「西遊記」像に与えた影響は非常に大きなものであった。

その最大の理由は、三蔵法師役を女優の夏目雅子が演じたことにあった。中立で高貴なイメージを持たせるため、当初は女形の五代目坂東玉三郎を起用するはずであったが断られたことで、夏目を起用したという。三蔵役を女性にしたのは、本作が初めてであった。

当初は、僧侶役を女優に演じさせるということへ批判もあったが、この配役が見事にハマったことで、その後西遊記を題材とした作品における三蔵は、女性もしくは女性寄りの中性というイメージで描かれるようになったそうだ。

こうして、日本独自のアレンジがなされた西遊記であるが、実はそれだけではないようだ。




そもそも西遊記は、玄奘が国禁を冒してまでインドに到達し、経典を得て長安に帰還するという実際に行なった旅がもとになっている。経典を翻訳する傍ら、訪れた国々の成り立ちや風習、政治などを記録した「大唐西域記」を執筆した。人気の読み物となり、学生たちの科挙の息抜きで次々に写本され、その過程でいわゆる二次創作が次々になされていった。それにより形成されていった設定が、「西遊記」となっていったのである。

さて、日本では三蔵が女性のイメージでほぼ定着化していると先述したが、それ以外にも日本独自の解釈が見られるのだ。河童として親しまれる沙悟浄であるが、原作における描写は「赤い髪に赤い瞳」「藍色の肌を持つ」「川に棲む妖怪」となっている。この「川に棲む」という設定から、日本人に最も馴染み深い河童が当てられたのではないかと考えられている。

また、日本オリジナルということではないが、豚の頭を持つ猪八戒については、当初日本(江戸時代)ではイノシシと訳されていた。これは「猪」の字から生じた誤解であったと思われるが、中国ではこの字が「ブタ」を意味しており、正しく日本でもブタと翻訳されたのは1931年になってからであったという。

日本において西遊記は、どの作品が印象に残っているか、面白かったかというコメントをすることでその人の年代や世代がわかると言われるほどに多くの作品で展開されている。あなたのイメージする『西遊記』はどれだろうか?

【参考記事・文献】
伝説のドラマ「西遊記」 あの三蔵法師、本当は夏目雅子さんじゃなかった!? 堺正章が明かす裏話にとんねるず貴明もビックリ
https://www.zakzak.co.jp/article/20181204-A7S3PYTEMVOLJMYY3I4D6IL4PI/
【誕生秘話】西遊記は実話だった!?一人の僧侶の苦難の旅を記した記録から始まった
https://hajimete-sangokushi.com/2016/04/01/post-11211/
西遊記、 史実から生まれた? それぞれの生い立ちや日本と中国の違いは
https://waqwaq-j.com/%e4%b8%ad%e5%9b%bd%e7%a5%9e%e8%a9%b1/2104/#i-11
ドラマ『西遊記1978』解説と考察。キャスト堺正章&夏目雅子の評価や作品変遷の紹介も
https://cinemarche.net/column/tokusatsu-19/

【文 ナオキ・コムロ】

画像 「西遊記DVDコレクション」第1号 ©デアゴスティーニ・ジャパン